第9話「無効化の脅威」
「強化無効化の技術……ドルシス殿、何かご存知のことは?」
ヴェルミナが、老技術者に問いかける。
ドルシスは、しばらく重い沈黙を保った後、静かに口を開いた。
「……古代文明の遺物には、確かに、あらゆる強化・付与効果を打ち消す性質を持つものが存在すると言われている」
「それは、本当ですか」
「わしも、詳細までは知らぬ。だが、もしザガレス皇帝がその類の遺物を手に入れたのだとすれば……レン、お前の力が、通用しなくなる可能性は、十分に考えられる」
レンは、ドルシスの表情に、僅かな陰りを感じ取った。
「ドルシスさん、何か、隠していることがあるんじゃ……」
「……いや、今は、憶測で語るべきではないな」
ドルシスは、それ以上の言及を避けるように、話を切り上げた。
その夜、レンは一人、作業場で資料を読み込みながら、対抗策を模索していた。
「もし本当に、強化そのものが無効化されるとしたら……俺にできることは、何があるだろう」
『マスター、一つ提案がございます』
ゼロ号が、静かに声をかけてくる。
「なんだい、ゼロ号」
『強化無効化が、既存の強化効果に対するものだとすれば――無効化されるより早く、新たな強化を重ね続けることで、対抗できる可能性があります』
「新たな強化を、重ね続ける……?」
『はい。無効化の効果が及ぶ前に、次々と強化を上書きしていけば、実質的な性能低下を最小限に抑えられるかもしれません』
レンは、その提案に目を見開いた。
「それは……理論上は、可能かもしれない。ただ、相当な集中力と、演算処理能力が必要になりそうだ」
『その点は、ゼロにお任せください! マスターの強化プロセスをサポートする形で、演算処理を代行いたします!』
こうして、レンとゼロ号は、来るべき「無効化」への対抗策を練り上げていくこととなった。
数日後、その脅威は、思いがけない形で現実のものとなった。
「報告! 東部国境付近で、原因不明の“力の消失”現象が多発しています!」
伝令兵の報告に、指揮所全体に緊張が走った。
「詳細は?」
「巡回中の戦車隊、突如として強化効果が消失し、通常の旧式装備に戻ってしまったとのことです」
「なっ……!」
レンは、血の気が引く思いだった。
「零崎殿、これは……」
「ザガレス皇帝の、対抗手段が……本当に実戦投入された、ということですね」
ヴェルミナの言葉に、レンは拳を握りしめた。
「現地に急行します。ゼロ号、例の対抗策、実践する時が来た」
『了解であります、マスター! 全力でサポートいたします!』
こうして、レンたちは、これまでとは全く異なる次元の戦い――「強化そのものを巡る攻防」へと、足を踏み入れていくこととなった。
(第10話へ続く)




