第8話「孤独な英雄」
王都防衛戦の勝利から数日、レンの名前は、もはや大陸中に知れ渡っていた。
「零崎レン様に、謁見を求める使者が、また各地から届いております」
基地に届く書状の山を前に、レンはため息をついた。
「正直、こういうの、苦手なんだよな……」
「贅沢な悩みね」
レティシアが、書状の一つを手に取りながら笑った。
「みんな、あんたに感謝してるのよ。素直に受け取っておきなさいよ」
「分かってるけど……なんか、実感が湧かないんだ。俺は、後ろで震えながら指示を出してるだけなのに」
「それでも、あんたの判断が、何百人、何千人もの命を救ったのは事実でしょ」
その言葉に、レンは言葉を詰まらせた。
その夜、レンは一人、基地の裏手で夜空を見上げていた。
(英雄、か……)
誰もが自分を称賛する。だが、その称賛が大きくなるほど、レンの中には、埋めがたい孤独が広がっていくような感覚があった。
(本当の俺を、誰も見てない気がする)
そんな時、ふとガイウスが隣に腰を下ろした。
「何、辛気臭い顔してんだよ」
「ガイウス……」
「お前、周りからどう見られようと、俺やレティシア、ヴェルミナは、ちゃんとお前自身を見てるぞ。“後ろで震えてる、不器用な奴”ってな」
その言葉に、レンは思わず笑ってしまった。
「それ、褒めてる?」
「もちろん褒めてるさ。震えながらも、逃げずに立ち続けてる。それが、お前の本当の強さだろ」
レンは、しばらく黙って夜空を見上げた後、静かに呟いた。
「ありがとう、ガイウス」
そんな折、ヴェルミナが緊急の報告を携えて姿を現した。
「零崎殿、重要な情報が入りました」
「何かありましたか」
「ザガレス皇帝が、王都攻略の失敗を受け、より根本的な戦略転換を図っているようです」
ヴェルミナは、険しい表情で続けた。
「具体的には――大陸全土の統一を諦め、代わりに、貴殿の力そのものを封じるための、特殊な対抗手段を開発しているとの情報があります」
「俺の力を、封じる……?」
「詳細は不明ですが、古代文明の遺物を利用した、強化無効化の技術だという噂もあります」
レンは、背筋に緊張が走るのを感じた。
(俺の力が、通用しなくなる……そんなことが)
「もし、その情報が事実なら、これまでの戦い方が、根本から通用しなくなる可能性があります」
ヴェルミナの言葉に、指揮所全体に緊張が走った。
「対策を、急ぐ必要がありますね」
「はい。ドルシス殿にも、至急連絡を取っております」
こうして、レンたちは新たな脅威――強化そのものを無効化する対抗手段への対策に、追われることとなった。
だが、この情報こそが、後にレンとドルシスの間に潜む、大きな秘密へと繋がっていくことになるとは、まだ誰も知る由もなかった。
(第9話へ続く)




