第6話「後方の英雄」
鬼灯の裏切りが発覚した翌日、防衛計画は全面的に見直され、東部戦線の布陣は一新された。
「情報漏洩の可能性がある以上、あえて“予測されにくい”配置を心がけましょう」
ヴェルミナが、新たな戦術案を提示する。
「ザガレス皇帝本隊の動きを、あえて誘い込むような布陣にすれば、逆に包囲するチャンスも生まれます」
「危険な賭けだが……やる価値はありそうだ」
ガイウスが、地図を睨みながら頷いた。
翌未明、ザガレス皇帝率いる本隊が、予想通りに新たな布陣の隙を突くように進軍を開始した。
「予定通り、罠にかかりました」
ヴェルミナの声に、レンは緊張しながら頷いた。
「戦車隊、包囲網を発動!」
号令と共に、周到に配置されていた戦車隊が、一斉に本隊の側面から姿を現す。
「な、なんだと……!」
ザガレス皇帝本隊の兵士たちの間に、初めて明確な動揺が走った。
「上空より、飛行艦隊、支援攻撃!」
空を埋め尽くすように展開した飛行艦隊が、包囲された本隊へと精密な攻撃を叩き込んでいく。
これまで一切の乱れを見せなかった敵本隊が、初めて統率に綻びを見せ始めた。
「押し返せ! 今が好機だ!」
ガイウスをはじめとする歩兵部隊が、勢いに乗って前進していく。
半日にわたる激戦の末、ザガレス皇帝率いる本隊は、ついに撤退を余儀なくされた。
「て、撤退……本当に、あのザガレス皇帝の本隊が……!」
伝令兵の興奮した声が、指揮所に響き渡る。
「やった、のか……!」
レンは、モニター越しに広がる戦場を見つめながら、安堵の息を漏らした。
この勝利の報は、瞬く間に大陸中へと広まっていった。
「あの零崎レンという男、ついにはザガレス皇帝の本隊まで打ち破ったらしいぞ」
「まさに、大陸を救う英雄だ」
「彼こそが、真の“最強勇者”に違いない」
各地から届く称賛の声に、レンは複雑な想いを抱えていた。
「なあ、レン。お前、また“最強勇者”呼ばわりされてるぞ」
ガイウスが、苦笑しながら声をかける。
「俺は、本当に何もしてないんだけどな……後ろで、震えながら指示を出してただけで」
「はは、それでも結果を出してるんだから、世間はそう見るしかねえだろ」
少し離れた場所で、レティシアがその様子を見つめながら、静かに呟いた。
「レン……あんたが英雄視されればされるほど、あんたの本当の姿は、誰にも見えなくなっていくのね」
その言葉には、以前のような焦りではなく、静かな気遣いが滲んでいた。
だが、この栄光の裏側で、新たな影が忍び寄りつつあった。
「零崎殿、緊急の報告です」
伝令兵が、慌てた様子で駆け込んでくる。
「ザガレス皇帝、本隊での敗北を受け、別動隊を率いて、王都グレアムへの直接攻勢を計画しているとの情報が入りました」
「なっ……王都を、直接?」
「おそらく、我々の戦力が分散している隙を突くつもりでしょう」
ヴェルミナが、険しい表情で地図を睨みつけた。
「この戦争、まだ終わりには程遠いようです」
レンは、拳を握りしめながら、次なる戦いへの覚悟を新たにした。
(第7話へ続く)




