第3話「北方の激戦」
南部戦線での勝利から一日と空けず、レンたちは北方戦線への支援に向かうこととなった。
「北方戦線の状況は?」
移動中の馬車の中、レンはヴェルミナに尋ねた。
「北方は地形が複雑で、大規模な戦車の展開が難しい地域です。むしろ、機動力に優れた飛行部隊を主軸とした方が有効かと」
「なるほど……地形に合わせて、戦術を変える必要があるんですね」
「その通りです。零崎殿の力は規格外ですが、それをどう活かすかは、あくまで用兵次第です」
到着した北方戦線は、切り立った峡谷が入り組む、険しい地形が広がっていた。
「敵軍は、峡谷の隘路を利用して、奇襲を繰り返しているとのことです」
現地の指揮官が、疲弊した様子で状況を説明する。
「正規軍だけでは、後手に回るばかりで……」
「分かりました。まずは、地形を把握させてください」
レンは地図を広げ、峡谷の構造を丹念に観察した。
(複雑な地形か……戦車は不向きだけど、飛行艦隊なら)
「ゼロ号、上空からの偵察は可能か?」
『問題ありません、マスター! 峡谷全体の地形データを収集いたします!』
ゼロ号が上空から集めた情報をもとに、レンは飛行艦隊の展開ルートを練り上げていった。
「峡谷の複雑な地形を利用して、敵の奇襲部隊を、逆に包囲する形にできないか」
「面白い発想ですね」
ヴェルミナが、地図を覗き込みながら頷いた。
「敵が奇襲に使っている隘路そのものを、我々が逆用するわけですね。ただし、精密な誘導が必要になります」
「そこは、ゼロ号のAI性能で補います」
『お任せください、マスター! ゼロの演算能力なら、複雑な地形での誘導も完璧にこなしてみせるであります!』
作戦は、翌未明に決行されることとなった。
敵軍の奇襲部隊が、いつものように峡谷の隘路から現れた瞬間――
「今です、包囲網を発動!」
レンの号令と共に、事前に配置されていた飛行艦隊が、峡谷の両側から一斉に姿を現した。
「な、なんだと……!? 待ち伏せか!」
敵軍が動揺する間もなく、精密な連携攻撃が、次々と奇襲部隊を無力化していく。
「戦況、我が軍優勢! 敵部隊、後退を開始しました!」
伝令兵の報告に、指揮所全体が沸き立った。
「……成功、したのか」
レンは、モニター越しに広がる峡谷を見つめながら、安堵の息を吐いた。
「零崎殿の柔軟な発想と、ゼロ号の精密な誘導があってこその勝利です」
ヴェルミナが、珍しく満足げな表情を浮かべた。
「これで、北方戦線も、当面の危機は脱したと言えるでしょう」
だが、その安堵も束の間だった。
「た、大変です! 東部戦線からの報告です!」
伝令兵の悲鳴じみた声に、指揮所の空気が一変した。
「東部戦線が、大規模な攻勢を受け、完全に崩壊寸前とのことです!」
「なんだと……」
レンの表情が、一気に強張った。
「敵軍を率いているのは、ドラケイン帝国の皇帝、ザガレス本人だとの情報も入っています」
その名前を耳にした瞬間、レンの中で、これまでとは違う種類の緊張が走った。
(皇帝、自ら……)
この戦争の、真の中心人物との対峙が、いよいよ迫りつつあった。
(第4話へ続く)




