第10話「開戦前夜」
司令官の告げた「本格的な戦争」という言葉は、基地全体に緊張を走らせた。
「ドラケイン帝国は、周辺の複数の国家と同盟を結び始めているとの情報もある。単独での報復ではなく、大陸規模の連合軍による侵攻を計画している可能性が高い」
作戦会議室に集められた面々に、司令官が淡々と状況を説明していく。
「我が基地としても、正式にグレアム小国、及び周辺の同盟国と防衛協定を結ぶことになった。零崎レン、お前の力が、この戦いの趨勢を左右することになるだろう」
「はい……」
レンは、これまで以上の重責を感じながら頷いた。
会議の後、レンは作業場に戻り、これまで手掛けてきた戦力の見直しに取り掛かった。
「戦車隊、戦闘機、ドローン部隊……単体の性能は、十分に規格外だと思う。だけど――」
『マスター、次なる展開に備え、いかがなさいますか?』
ゼロ号の問いに、レンは資料を広げながら考え込んだ。
「大規模な戦争になるなら、単体の強さだけじゃなく、部隊としての“連携”をもっと洗練させる必要がある」
「兄ちゃん、それやったら、ワイに任せてや」
ちょうどそこへ顔を出したボンゾウが、得意げに胸を張った。
「兵站や物資の流通は、ワイの十八番や。戦力の展開ルート、補給計画、全部組ませてもらうで」
「ありがとうございます、ボンゾウさん」
ドルシスもまた、資料を眺めながら口を開いた。
「戦車隊、戦闘機隊に加え、飛行艦隊の構築も急いだ方が良いだろうな。地上と空、両方からの制圧力があれば、連合軍相手でも十分に対抗できるはずだ」
「飛行艦隊……そうですね、ゼロ号が以前提案してくれたものですね」
『はい、マスター! 母艦を中心とした統合運用が可能になれば、防衛範囲は飛躍的に拡大するであります!』
こうして、レンの新たな挑戦――飛行艦隊の構築が、本格的に始動することとなった。
その夜、レンは一人、基地の高台に登り、夜空を見上げていた。
(戦争、か……)
まだ実感の湧かない、途方もない規模の戦いが、目前に迫っている。だが同時に、レンの胸の内には、確かな決意も芽生え始めていた。
「レン」
声をかけてきたのは、レティシアだった。
「レティシア。こんな時間に、どうしたの?」
「あんたこそ。難しい顔して、何を考えてるのよ」
レティシアは、レンの隣に腰を下ろした。
「これから、もっと大きな戦いになる。あたしも、剣士として、ちゃんと前線に立つつもり」
「無理、しないでよね」
「それは、こっちの台詞よ」
レティシアは、少し呆れたように笑った。
「あんたは、いつも自分のことより、他人を心配してばっかり。たまには、自分のことも大事にしなさいよ」
「……うん、そうだね」
二人はしばらく、無言のまま夜空を見上げていた。
「なあ、レン」
「うん?」
「あんたがどれだけ大きな力を持つようになっても……あたしは、ずっと隣にいるから」
その言葉に、レンは僅かに頬を緩めた。
「ありがとう、レティシア」
こうして、静かな夜が過ぎていく。
だが、この平穏もまた、束の間のものに過ぎなかった。
翌朝、基地に飛び込んできたのは、大陸各地からの緊急報告だった。
「ドラケイン帝国を中心とした連合軍、複数方面から同時侵攻を開始しました!」
ついに、大陸全土を巻き込む戦争の火蓋が切られた。
これより、レンたちの物語は、国家戦争編――大きな戦乱の時代へと突入していく。
(第2巻・完 第3巻「国家戦争編」へ続く)




