第9話「正体不明の強者」
国境戦の勝利から数日、レンたちの部隊は、グレアム小国の王都へと招かれていた。
「此度の救援、誠にありがとうございました」
グレアム小国の国王が、深々と頭を下げる。玉座の間には、居並ぶ廷臣たちの視線が、遠征部隊の指揮官へと注がれていた。
「此度の勝利、まさに天佑と言うべきものでしょう。あの戦車隊、飛行部隊……いったい、どなたの指揮によるものか」
国王の問いに、指揮官が視線を後方へと向ける。だが、レンはその場から一歩後ろに下がり、目立たないように佇んでいた。
(俺の名前が出るのは……できれば避けたい)
複雑な感情から、レンは無意識に自分の存在を隠そうとしていた。だが、そんなレンの様子に気づいたガイウスが、代わりに口を開いた。
「陛下、あの戦力を生み出したのは、こちらにおります零崎レン殿です」
「なっ……ガイウス!」
レンが慌てて制止しようとするが、既に遅かった。
「零崎レン殿……? これは、これは」
国王をはじめ、廷臣たちの視線が一斉にレンへと注がれる。
「其方が、あの規格外の戦力を生み出した御仁か。まさに、大陸の救世主とも呼ぶべき御方だ」
「い、いえ、俺は、その……」
レンは慌てて否定しようとするが、うまく言葉が続かない。
「零崎殿、貴殿の名声は既に近隣諸国にも広まりつつあります。何しろ、たった一日でドラケイン帝国軍を退けたのですから」
「あの、それは……俺一人の力では、決して」
「謙虚な御方だ。だからこそ、真に信頼できる」
国王は満足げに頷き、廷臣たちも口々に賞賛の言葉を口にする。
「まさに、伝説の勇者の再来だ」
「この方がいれば、大陸に平和が訪れるやもしれん」
その様子を、少し離れた場所からレティシアが複雑な表情で見つめていた。
(レン……あんたが望んでたのは、こんな注目のされ方じゃ、なかったはずなのに)
王都からの帰路、レンは馬車の中で深いため息をついた。
「なあ、レン。そんなに気に病むことないだろ」
ガイウスが、努めて明るく声をかける。
「俺は……別に、勇者になりたいわけじゃないんだ。ただ、目の前で困ってる人を、助けたかっただけで」
「分かってるさ。だが世間はそう見ちゃくれねえ。お前の力は、それだけ規格外だったってことだよ」
レンは、窓の外を流れる景色を見つめながら、静かに呟いた。
「これから、もっと大きな戦いに巻き込まれていくんだろうか……」
その予感は、すぐに現実のものとなる。
グレアム小国での一件は、瞬く間に周辺諸国へと広まり、レンの名は「正体不明の強者」として、大陸中に知れ渡ることとなった。
そしてそれは同時に――ドラケイン帝国、そしてその背後で糸を引く、より大きな勢力の目を、レンへと引き寄せる結果にもなっていた。
基地へと戻ったレンを待っていたのは、司令官からの、思いがけない知らせだった。
「零崎レン。お前に、新たな任務を言い渡す」
「任務、ですか」
「ドラケイン帝国が、本格的な報復体制を整えつつあるとの情報が入った。奴らは、今度こそ本腰を入れて、この地域一帯を制圧しにくるだろう」
司令官は、地図の上に広がる大陸全土を指し示した。
「これは、もはや一国の争いでは済まされない。大陸全土を巻き込む、本格的な戦争の始まりだ」
レンは、静かに拳を握りしめた。
(これが……本当の戦争の始まりか)
この瞬間から、レンの物語は、単なる一小国の防衛戦を超え、大陸全土を巻き込む「国家戦争編」へと突入していくことになる。
(第10話へ続く)




