第8話「戦場の後方にて」
国境の丘陵地帯に布陣したレンたちの部隊は、グレアム軍の残存兵力と合流し、防衛線を構築していた。
「零崎殿、こちらが指揮所になります」
案内された小高い丘の上、レンは戦場全体を見渡せる位置に、簡易的な作業拠点を構えた。ここから、戦車隊や飛行部隊への強化サポートと、リアルタイムでの状況把握を行う。
「レン、始めるぞ」
ガイウスが、歩兵部隊と共に前線へと向かっていく。レティシアも、剣を手に別動隊に加わった。
「ゼロ号、上空からの偵察を頼む」
『了解であります、マスター! 敵軍の動きを逐一報告いたします!』
程なくして、ドラケイン帝国軍の先鋒が、平原の向こうから姿を現した。数にして数千、隊列を組んだ魔法兵科の一団が、着実に距離を詰めてくる。
「来たか……」
レンは息を呑みながら、戦車隊への通信を繋いだ。
「戦車隊、前進を。ただし、無理な突出は避けてください」
「了解!」
三両の戦車が、丘陵地帯を下り、平原へと進軍していく。
ドラケイン帝国軍が、最初の攻撃魔法を放った。無数の火球が、戦車隊に向けて降り注ぐ。
――だが。
着弾した火球は、戦車の装甲に触れた瞬間、まるで意味を成さないかのように弾け散った。
「な、なんだあの装甲は……!」
ドラケイン軍側から、動揺の声が上がる。
「今です、主砲斉射!」
レンの号令と共に、三両の戦車が一斉に主砲を放つ。轟音と共に、ドラケイン軍の先鋒部隊が纏めて吹き飛ばされた。
「う、嘘だろ……先鋒がたった一斉射で……」
戦場全体に、動揺の波が広がっていく。
「上空より、ゼロ号、支援攻撃に入ります!」
空を舞うドローン部隊が、混乱する敵軍の後方へと精密な攻撃を叩き込んでいく。統率を失った兵士たちが、次々と崩れていった。
この光景を、丘の上から見つめるレンの心には、複雑な感情が渦巻いていた。
(俺の強化した道具が……人を傷つけている)
どれだけ「守るため」と言い聞かせても、目の前で崩れていく敵兵の姿は、レンの胸に重くのしかかった。
「レン、大丈夫か」
通信越しに、ガイウスの声が届く。
「大丈夫……というか、大丈夫でなきゃいけない、と思ってる。俺は、これを選んだから」
「そうか。……なら、俺たちはお前が守ろうとしてるものを、ちゃんと守り抜くだけだ」
戦況は、驚くべき速さで一変していった。数の暴力を頼みとしていたドラケイン軍は、レンが強化した戦力の前に、成す術もなく後退を余儀なくされていく。
半日にも満たない攻防の末、ドラケイン帝国軍は、国境から完全に撤退した。
「……勝った、のか」
レンは、丘の上から静まり返った戦場を見つめながら、呆然と呟いた。
グレアム小国の兵士たちからは、歓声が沸き起こっていた。
「あの戦車隊は何者だ……!」
「まさか、たった一日でドラケイン軍を退けるとは……!」
誰もが、勝利をもたらした「戦力」の正体に興味を抱いていた。だが、その中心にいた青年が、後方の丘で震えながら戦況を見守っていただけの存在だとは、まだ誰も気づいていなかった。
この日を境に、レンの名前は、大陸の各地へと広がり始めることになる。
――「後方から戦を制する、正体不明の強者」として。
(第9話へ続く)




