第6話「戦雲の兆し」
基地に緊張が走ったのは、ある日の早朝だった。
「大変です! 隣接するグレアム小国から、緊急の救援要請が届いています!」
伝令兵の声に、司令官の執務室は一気に慌ただしくなった。
「詳細を」
「隣国ドラケイン帝国が、国境を越えて侵攻を開始したとのことです。グレアム小国だけでは、到底防ぎきれないと……」
地図を広げ、司令官は険しい表情を浮かべた。
「ドラケイン帝国か……以前から、周辺国への圧力を強めていたな」
「いかがなさいますか。我が基地は本来、この地域の防衛が主任務。直接的な援軍要請には、応じる義務はありませんが」
司令官はしばらく黙考した後、静かに口を開いた。
「零崎レンを呼べ」
程なくして、レンが執務室に呼び出された。
「お呼びでしょうか」
「単刀直入に聞く。お前が開発した戦力――戦車、戦闘機、そしてドローン。これらを、隣国救援のために投入することは可能か」
レンは一瞬、息を呑んだ。
「それは……戦争に、直接関わるということですか」
「その通りだ。グレアム小国は、放っておけば数日と持たずに陥落するだろう。だが、我が基地の正規戦力だけでは、遠征は現実的ではない」
司令官はレンをまっすぐに見据えた。
「お前の力があれば、状況は変わる。無論、強制はしない。これは、お前自身の意志で決めることだ」
レンは、しばらく黙り込んだ。
(戦争に……俺の作った道具が、人を殺す道具として使われる)
これまでの強化は、あくまで「防衛」のためのものだった。だが今回は、明確に「戦争」という言葉が伴っている。
その重さに、レンは戸惑いを隠せなかった。
「……少し、考えさせてください」
「よかろう。だが、時間は多くない」
執務室を出たレンは、そのままガイウスとレティシア、そしてドルシスの元へと向かった。
「戦争、か……」
事情を聞いたガイウスは、腕を組んで唸った。
「レン、お前はどうしたい?」
「分からない……俺の作った戦車や戦闘機が、人を傷つけるために使われるかもしれない。それが、怖いんだ」
レティシアが、静かに口を開いた。
「レン。あんたの力は、これまで基地の仲間たちを守るために使われてきたわよね」
「うん」
「グレアム小国の人たちだって、今まさに、誰かに脅かされてる。守るべき対象が、基地の外に広がっただけじゃないの?」
その言葉に、レンははっとした。
「……そうか。俺は、勝手に“戦争”って言葉に怯えて、目の前で助けを求めてる人たちのことを、見落としてた」
ドルシスが、静かに頷いた。
「レン、力とは常に、使う者の意志によってその意味を変える。お前の力が、誰かを踏みにじるためではなく、誰かを守るために使われるのなら――それは、決して間違った選択ではあるまい」
レンは、拳を握りしめた。
「……分かりました。俺は、グレアム小国を守るために、この力を使います」
その日の午後、レンは司令官の元へと戻り、正式に協力を申し出た。
「決心したか」
「はい。ただし――一つ、条件があります」
「条件、だと?」
「俺自身は、最前線には立ちません。俺にできるのは、あくまで“強化”だけです。実際に戦う人たちを、後方から支えることに徹します」
司令官は、僅かに目を細めた。
「良い覚悟だ。……ならば、これより特務開発班を中心とした遠征部隊を編成する。準備を急げ」
こうして、レンたちの遠征部隊が、グレアム小国へと出発することとなった。
誰も予想していなかった。この一件が、やがてレンを「大陸の統一者」へと押し上げていく、大きな転機になることを。
(第7話へ続く)




