第5話「兵站を支える者」
ゼロ号の暴走事件から数日、レンは改めてAI制御の仕組みを一から見直す作業に没頭していた。
「マスター、ゼロは反省しているであります。もっとマスターに信頼していただけるよう、精進する所存であります」
「いや、俺の方が反省してるよ。もっと早く、君の“思考”を理解しておくべきだった」
そんなある日、作業場に一人の商人がひょっこりと顔を出した。
「兄ちゃん、ここが噂の特務開発班かいな」
「え、あなたは……?」
「ボンゾウいいます。基地御用達の武器商人や。今度、兵站関連の物資調達を任されることになってな」
恰幅の良い中年男性は、興味深そうに作業場を見回した。
「兄ちゃんが例の、アイテム超強化の兄ちゃんか。噂は聞いとるで。戦車に戦闘機、しまいにゃ喋るドローンまで作ってしもたて」
「あ、はい……その通りです」
「なあ、兄ちゃん。せっかくやし、ワイと組まへんか?」
「組む、というのは?」
「兄ちゃんが強化した装備、正直、宝の持ち腐れになっとる部分も多いやろ。ワイが適正な形で流通させたる。もちろん、儲けは折半や」
レンは戸惑いながらも、ボンゾウの提案に耳を傾けた。
「でも、俺の作った装備は、基地の防衛のためのものが多いので……」
「ちゃうちゃう、そこやない。兄ちゃんが理解を深めるための“実験素材”を、ワイが色々調達したるちゅう話や」
ボンゾウはにやりと笑う。
「兄ちゃんの強化には、対象への理解が要るんやろ? やったら、色んな素材や技術資料、なるべく多く集めた方がええはずや。そこはワイの得意分野やで」
その提案は、レンにとって渡りに船だった。
「本当に、助かります。ぜひ、お願いします」
「よっしゃ、決まりや。……ただし」
ボンゾウは指を一本立てた。
「兄ちゃんが強化した装備の中で、“売れそうなもん”があったら、優先的にワイに融通してや。損して得取れ、や」
「はは……分かりました」
こうして、ボンゾウはレンの開発活動を支える、欠かせない存在の一人となっていった。
その日の午後、東北出身の目利き役――ゴンザもまた、作業場に顔を出していた。
「んだ、この鉱石、なかなか良い性質してっぺ」
ゴンザは、レンが新たに入手した未知の鉱石を、じっくりと吟味していた。
「ゴンザさん、これは強化の素材になりそうですか?」
「んだな。ただ、無理して急がねぇ方がええぞ、あんちゃん。理解の浅いまま使うと、痛い目見るからな」
「……そうですね。ゼロ号の一件で、よく分かりました」
ゴンザは、朴訥な笑みを浮かべながら頷いた。
「あんちゃんは、真面目過ぎるくらいでちょうどええ。焦らず、じっくりいけばええ」
こうして、レンの周囲には、少しずつだが確かな仲間の輪が広がりつつあった。
工廠長からの信頼、ガイウスとの友情、ドルシスの知識、ボンゾウの商才、ゴンザの目利き――一つ一つは決して大きな力ではないかもしれない。だが、それらが積み重なることで、レンの「理解」は加速度的に深まっていった。
「マスター、次なる強化対象について、ゼロが提案してもよろしいでしょうか」
「うん、聞かせてくれ」
『飛行艦隊の構築であります! 戦闘機だけでなく、複数機を統括する母艦のような存在があれば、より広範な防衛が可能になるかと』
「飛行艦隊……か」
レンは、次なる挑戦に思いを馳せた。国家間の緊張が高まりつつあるという噂も、耳に届き始めていた頃だった。
この後、レンたちは思いがけない形で、大陸を揺るがす戦争の渦へと巻き込まれていくことになる。
(第6話へ続く)




