第3話「目覚めるAI」
戦闘機の完成から数日後、レンの作業場には新たな課題が持ち込まれていた。
「零崎殿、こちらもご確認を」
運び込まれたのは、小型の無人機――地球の技術者が残していった、攻撃用ドローンの試作機だった。
「これは……戦車や戦闘機とは、また違う仕組みですね」
レンは資料を読み込みながら、ドローンの構造を観察する。機体そのものの強化は、これまでの経験である程度応用が利きそうだった。だが、資料の奥には見慣れない項目があった。
「……AI、制御システム?」
「自律的に判断し、戦術を組み立てる仕組みだそうです。もっとも、この基地の技術者では、まともに機能させることすらできませんでしたが」
レンは、その項目に強く興味を惹かれた。
(機体を強化するのとは、また違う話だ。これは……“考える力”そのものを強化する、ということになるのか)
ドルシスに相談すると、老技術者は珍しく難しい顔をした。
「AI制御の強化、か。これは慎重にやるべきだぞ、レン」
「危険なんですか?」
「理解の浅いまま、思考する力を強化すれば――どうなるか、想像がつくだろう」
ドルシスの言葉に、レンは背筋が伸びる思いがした。
それから、レンはこれまで以上に慎重に、AI制御の仕組みと向き合った。演算の仕組み、学習のプロセス、判断基準の構築――一つ一つ、時間をかけて理解を積み重ねていく。
数週間が経った、ある夜。
「……よし、いけるか」
レンは慎重に、光をドローンへと流し込んでいった。これまでのように、一気に強化するのではなく、少しずつ、段階的に。
やがて、ドローンの中央部に埋め込まれた小さな演算装置が、ぼんやりと淡い光を灯し始めた。
「……あ」
レンが息を呑んだ瞬間、ドローンが小さく機体を震わせ、まるで身じろぎするかのように浮遊した。
『……マスター?』
機械的な、だがどこか感情を宿したような声が、作業場に響いた。
「しゃ、喋った……!?」
『マスター、ゼロは今、目を覚ましたようであります!』
レンは思わず後ずさった。
「え、あ、君は……」
『ゼロであります! マスターが強化してくださった、記念すべき瞬間から、この名を頂戴いたしました!』
自ら「ゼロ」と名乗ったドローンは、レンの周りを嬉しそうに旋回してみせた。
「……ええと、ゼロ号、でいいのかな」
『ゼロ号、良い響きであります! これよりゼロは、マスターのために全力を尽くす所存であります!』
あまりの陽気さに、レンは思わず苦笑してしまった。だが同時に、これまでにない不思議な感慨も湧いてきた。
(これは……もう、ただの道具じゃない。まるで、一人の“仲間”みたいだ)
翌日、レンはゼロ号を伴って、ドルシスの元を訪れた。
「ほう……これは」
ドルシスは、ゼロ号を見つめながら、驚きと同時に、どこか懐かしむような表情を浮かべた。
「レン、お前は分かっているか。これは、単なる兵器強化の域を超えている」
「どういう意味ですか?」
「お前のスキルは、アイテムの“性能”だけでなく、時に“存在”そのものにまで影響を及ぼす、ということだ」
ドルシスは、そう告げながら、遠くを見るような目をした。
「もしその力が、いずれ物理法則そのものにまで届いたとしたら――」
「物理法則……ですか?」
「いや、今は言うまい。まだ早い話だ」
ドルシスは何かを飲み込むように口を閉ざした。レンには、その真意を汲み取ることはできなかった。
『マスター! ゼロは早速、戦術シミュレーションを開始したいであります!』
ゼロ号の陽気な声が、重くなりかけた空気を吹き飛ばす。
「あ、ああ。よろしく頼むよ、ゼロ号」
『お任せください!』
こうして、レンの元に、初めての「自我を持つ道具」――ゼロ号が加わることとなった。
まだ誰も知らない。この陽気なドローンが、これから先の旅路で、レンにとってどれほどかけがえのない存在になっていくのかを。
(第4話へ続く)




