第五話 いただきますの滝
退屈な授業が終わり、窓の外をぼんやり眺めていると、月彦が話しかけてきた。
「今日、学校終わったら遊びに行かねー?」
そう言うと、ニヤリと笑う。
「俺のとっておきの場所に連れてってやるよ。あと、百円持ってきてくれ」
何のことだかわからなかったが、とりあえず約束した。
月彦は仲間内でもリーダー格の存在だった。
物知りで、何をやらせても器用にこなす。
そういえば、俺が初めて性教育を受けたのも月彦からだった。
今思えば、正しい知識だったかどうかは怪しいが。
放課後、待ち合わせ場所へ行くと、月彦はすでに来ていた。
「よし、行くか!」
元気よく歩き出した月彦が振り返る。
「まずは俺のとっておき、『いただきますの滝』だ!」
月彦の家は、町外れの田舎にあった。
団地住まいだった俺から見れば、まるで屋敷のような大きな家だった。
その家の近くの山の中に、小さな滝がある。
しばらく山道を歩き、目的の滝へたどり着くと、月彦は何のためらいもなく滝の水をすくって飲み始めた。
「いいか? この滝の水を飲む時はな、『いただきまーす』って言いながら飲むんだぞ」
月彦が勝手に決めたルールなのだろう。
俺たちは順番に滝へ近づき、
「いただきまーす!」
と言いながら水を飲んだ。
勢いよく流れる水は、口だけでなく鼻や気管にも入り込み、むせ返る。
苦しかった。
だが、それが妙に面白かった。
子供なんて、そんなものである。
ひとしきり遊ぶと、月彦が言った。
「次は昼飯だ!」
そして念を押すように続ける。
「百円、持ってきただろ?」
月彦が向かった先は、住宅街にある普通の一軒家だった。
玄関先で大声を出す。
「すいませーん! ハンバーガーください!」
俺は首をかしげた。
「こんな所でハンバーガー売ってんの?」
しかも百円らしい。
今ではあまり見かけないが、昔はハンバーガーの自動販売機があった。
値段は百八十円くらいだったと思う。
その自動販売機は少し変わっていて、二百円を入れると商品を選ぶ前にお釣りが出てきた。
一度お金を入れたらキャンセルはできない。
今思えば、なかなか豪快な仕組みだった。
どうやら、その自動販売機のハンバーガーを製造していたのが、この家だったらしい。
子供たちが直接買いに来ると、百円で売ってくれていた。
自動販売機よりずっと良心的だった。
俺たちはハンバーガーを買い、駄菓子屋でビスケットを買って川へ向かった。
腹が満たされると、永士がビスケットを飛ばし始めた。
ビスケットは綺麗な円形をしている。
指で挟んで弾くと、まるで円盤のように飛んでいった。
「おおっ!」
誰かが声を上げる。
すると、みんな競うように飛ばし始めた。
おやつに買ったはずのビスケットは、気づけばほとんど川の中へ消えていた。
今思えば、ずいぶんもったいない遊びだった。
それでも、あの頃の俺たちは夢中だった。
ただ川辺でビスケットを飛ばしているだけなのに、腹がよじれるほど笑った。
何がそんなに楽しかったのか、今ではよくわからない。
それでも確かなのは、あの日の俺たちは最高に楽しかったということだ。




