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第四話 柔道

敵討ちは、見事な肩透かしに終わった。


そして翌日。


昼休みになり、みんなが給食を広げ始めた頃だった。


ピンポンパンポーン。


校内放送が鳴る。


「三年E組、久保武司」


「三年E組、杉本将虎」


「職員室まで来なさい」


教室の空気が一瞬止まった。


俺と武司は顔を見合わせる。


「……なぁ」


「うん」


「今の声、ゴリよしだよな?」


ゴリよし。


体育教師である。


自衛隊出身だとか、国体選手だったとか、いろんな噂があった。


真偽は知らない。


ただ一つだけ確かなことがある。


とにかくゴツイ。


そして怖い。


昭和から平成にかけての時代。


教師が生徒を叱る方法も、今とはかなり違っていた。


俺たちは、これまでにも何度かゴリよしの標的になったことがある。


呼ばれて素直に行くほど、学習能力はなかった。


「無視しよう」


俺たちは即座に結論を出した。


ところが昼休みに入ると、再び放送が流れる。


「久保武司」


「杉本将虎」


「職員室に来なさい」


今度は完全に名指しだった。


さすがに逃げ切れない。


俺たちは観念して職員室へ向かった。


ゴリよしの席へ行くと、本人はニヤニヤしていた。


その表情を見た瞬間、嫌な予感しかしなかった。


まるで新しいオモチャを手に入れた子供のような顔だった。


「お前ら」


ゴリよしが言う。


「昨日、川向こうの学校に乗り込まなかったか?」


俺たちは即答した。


「さあ?」


「知りませんけど」


自分で言うのもなんだが、顔には


『乗り込みました』


と大きく書いてあったと思う。


ゴリよしは笑った。


「いや、いい」


「お前らだって分かってるから」


俺たちの背筋が伸びる。


「胸に学校名と名前が書いてあったらしいぞ」


俺はゆっくり武司を見た。


武司も俺を見た。


そして、なぜか少し照れたように笑った。


この馬鹿である。


ゴリよしは続けた。


「通報じゃ、四人いたらしいな」


「あと二人は誰だ?」


「知りません」


「分かりません」


俺たちは即答した。


仲間は売らない。


そこだけは妙な団結力があった。


ゴリよしは腕を組む。


「そうか」


そして静かに言った。


「じゃあ、お前らが四人分の責任を取るんだな」


嫌な予感しかしなかった。


その後、俺たちは別室へ連れて行かれた。


詳しい内容は省略する。


ただ一つ言えるのは――


全然楽しくなかった。


すべてが終わった後。


ゴリよしが呆れたように言った。


「しかし、お前ら」


「あの先生によく向かっていったな」


「え?」


俺たちは顔を上げた。


「あの人、柔道家として有名な先生だぞ」


その瞬間、すべてが繋がった。


全力で走ってきたのに息一つ切れていなかったこと。


バットを向けても全く動じなかったこと。


むしろ俺たちの方がビビっていたこと。


なるほど。


そういうことだったのか。


俺たちは妙に納得した。


最後にゲンコツを一発もらい、ようやく解放される。


職員室を出た俺はため息をついた。


「こんな顔じゃ、ますますモテねぇな……」


武司も頷く。


「それな」


帰り道。


俺と武司は二人乗りの自転車で学校を後にした。


ぶつぶつ文句を言いながら。


だが今思えば――


全部、自業自得だった。


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