第六話 タケマン
ある日の体育の授業。
その日はスポーツテストの練習だった。
本番に向けて、どんな内容なのかを体験する授業で、二クラス合同で行われた。
なんでスポーツテストとかマラソンって、寒い日にやるんだろう。
寒がりな俺は、震えながら授業を受けていた。
隣のクラスに、竹井満三郎という生徒がいた。
あだ名はタケマン。
おかっぱ頭でぽっちゃり体型。メガネをかけていて、何を考えているのかわからない目をしていた。
イジメられていると言えばイジメられている。しかし、そうでないと言えばそうでもない。
頭が良いのか悪いのかもわからない。
女には絶対モテない。
そんな男だった。
だが、俺はタケマンがたまらなく好きだった。
接してみるとわかるが、ギャグがメチャクチャ面白い。
言葉も巧みで、物知りで、体を張ったギャグもできる。
ただし、運動神経だけは致命的だった。
本人は本気なのだが、見ている側は笑いを堪えられない。
そして俺たちは、ハンドボール投げの練習をする事になった。
タケマンは独特のフォームで投球に臨む。
そして、全身を使って投げた瞬間――。
何故かボールは真横へ飛んだ。
俺は大爆笑した。
俺たちのクラスは、タケマンたちのクラスが投げる時、ボール拾いを担当していた。
しかし、ボールは横に飛ぶ。
当然、こちらには来ない。
「おい、タケマン! 飛んでこねーぞ!」
野次が飛ぶ。
すると記録係が、
「ただいまの記録、ゼロメートル」
と言った。
また大爆笑。
本来ならマイナスメートルだったかもしれない。
そして迎えたスポーツテスト本番。
その場には、美術の先生も立ち会っていた。
実はその先生、有名人の甥っ子だった。
上下ジャージ姿で腕を組み、生徒たちの様子を見守っていた。
そして、ついにタケマンの番が来る。
みんなが注目した。
今日はゼロメートル以上を出せるのか。
期待と不安が入り混じる。
美術の先生は、生徒たちの横で様子を見ていた。
どれだけ飛ぶのかを確認するためだ。
タケマンは、いつもの独特なフォームを取る。
そして一投目。
やっぱりボールは真横へ飛んだ。
その瞬間だった。
ボールは美術の先生の顔面へクリーンヒット。
何故か球速だけは異常に速いタケマンのボール。
先生のメガネは見事に吹っ飛んだ。
前へ飛ぶはずのボールが、真横から飛んでくる。
しかも先生は腕を組んでいる。
あんなのボクサーだって避けられない。
俺は腹がよじれるほど笑った。
大爆笑の中、先生はタケマンの腕を掴み、
「てめぇ、わざとだろ!」
と凄い剣幕で怒鳴った。
しかし、わざとではない。
タケマンは両手を合わせながら、
「ご、ご、ご、ごめんなさい!」
と必死に謝っていた。
こうして、この出来事は俺たちの間で永遠に語り継がれる笑い話となった。
少なくとも俺は、あの日以上に笑ったハンドボール投げを知らない。




