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第二話 敵討ち

中学三年になり、クラスにもすっかり馴染んできた頃のことだった。


ある日、永士がボロボロの姿で教室へ入ってきた。


制服は泥だらけで、顔には殴られた跡がある。


それを見た月彦が大声を上げた。


「永ちゃん! どうした!? 血まみれじゃねーか!」


永士は頬を押さえながらも、ニヤリと笑った。


「はは……やられちまったよ」


話を聞くと、学校裏の公園で二人組の男と揉め、袋叩きにされたらしい。


それを聞いた月彦の顔がみるみる赤くなる。


「なんだと!?」


昭和生まれ、平成育ちの俺たちは、仲間がやられたと聞けば黙っていられない。


当時流行していたヤンキー漫画の影響もあったのだろう。


敵討ち。


そんな言葉を、本気で信じていた時代だった。


月彦は勢いよく立ち上がった。


「よし! 虎! 敵討ちに行くぞ! 武も呼んでこい!」


こうして、


月彦つき将虎とら永士えいちゃん武司たけ


四人は、敵討ちへ向かうことになった。


今思えば、本当に馬鹿だった。


永士が殴られたのは学校の近く。


その話だけで、俺たちは勝手にこう結論付けた。


――川の向こうにある学校の奴らに違いない。


根拠は、それだけだった。


「武器が必要だな」


誰かがそう言い出し、俺たちは野球部からバットを借りてきた。


そして意気揚々と川へ向かう。


冬の渇水期だったが、水はしっかり流れていた。


結構な大河である。


だが、そんなことは気にならない。


敵討ちで頭がいっぱいだった。


……はずだった。


川の途中で、俺の鼻水が垂れてきた。


俺はそれを指でつまみ、わざとぶらーんと垂らす。


そして逃げる武司へ向かって突撃した。


「やめろぉぉ!」


武司が必死に逃げる。


俺はさらに月彦と永士にも鼻水攻撃を仕掛けた。


「ぎゃはははは!」


気が付けば、敵討ちに向かう四人組は、ただの小学生みたいになっていた。


そんな調子で騒ぎながら、ようやく川を渡り切る。


月彦がバットを肩に担いで叫んだ。


「よし! 着いた! 乗り込むぞ!」


俺たちは勢いよく学校へ突入した。


ところが――


妙に静かだった。


人の気配がほとんどない。


すると、眼鏡をかけた男子生徒が一人歩いてくる。


俺はその生徒を呼び止めた。


「おい、そこのメガネくん」


男子生徒が振り返る。


「なんですか?」


「この学校にいるだろ。頭リーゼントの二人組」


「そいつらの所へ案内しろや」


すると、メガネくんは眼鏡をクイッと持ち上げて言った。


「は?」


「もうみんな下校しましたけど」


俺たちは顔を見合わせる。


だが、メガネくんはさらに続けた。


「それに――」


「うちの学校、全員坊主ですよ」


沈黙。


俺たちは固まった。


バットを持ったまま。


しばらく誰も口を開かなかった。


そして全員で顔を見合わせる。


「……」


「……」


「……」


「帰るか」


月彦が小さく呟いた。


イキがって乗り込んできたものの、完全な見当違いだったのである。


その時、永士がハッとした顔をした。


「あ」


「どうした?」


「今考えたら……あいつら高校生だったかも」


三人の動きが止まる。


そして次の瞬間。


「おい! そういうことは早く思い出せよーーっ!!」


俺たちの叫び声が校舎に響いた。


その時だった。


向こうから一人の中年男がジョギングしながら近づいてくる。


背広にネクタイ姿だ。


どう見ても教師だった。


男は俺たちを見るなり叫んだ。


「おい! お前ら! どこの学校のもんだ!?」


しまった。


そう思った時には、もう遅かった。


ちなみに俺は、この教師に余計なことをしてしまい、後日とんでもない目に遭うことになる。


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