第十三話 進路
部活も引退し、中学生活も残りわずかとなった頃だった。
ある日、廊下を歩いていると、達人に呼び止められた。
「やい杉本、おめぇは進路をどうするでぇい?」
達人の口癖だ。
「やい」と「でぇい」。
達人は、いつもこの言葉を使っていた。
だが、進路と聞かれても困る。
俺は、まだ何も決めていなかった。
周りを見れば、それぞれ将来に向かって動き始めている。
月彦は勉強ができるから、進学先もほぼ決まっていた。
永士は勉強こそ苦手だったが、それなりに頑張っていた。
武司は高校へは行かず、働くつもりだった。
では、俺はどうだろう。
どんな大人になりたいのか。
どんな仕事をしたいのか。
そんなこと、一度も真剣に考えたことがなかった。
毎日遊んで、その日が楽しければそれで良かったのだ。
そんなある日、龍二が勝負を持ちかけてきた。
「今度の期末テストで勝負しようぜ」
龍二は運動神経が良く、勉強もやればできるタイプだった。
一方の俺は永士と同じくらい。
五教科二百五十点満点で八十点から百点程度。
学年三百六十人中、順位は二百八十番前後だった。
授業など、ほとんど聞いていない。
得意なのは国語や社会。
理数系はさっぱりだった。
だが、勝負と言われると断りたくない。
「まあ、やってみるか」
テストまで二週間。
俺は夜遊びする時間を削って勉強した。
たった二週間。
だが、それまでの俺にとっては信じられないことだった。
そして、テスト当日を迎えた。
数日後、結果が発表される。
俺の点数は、二百五十点満点中百五十点。
学年順位は百八十番だった。
百人以上をごぼう抜きし、順位はちょうど真ん中あたりまで上がっていた。
正直、自分でも驚いた。
だが、勝負には負けた。
龍二は百七十点を取っていたのだ。
全然届かなかった。
後日、今度は担任に呼び出された。
また何かやらかしたのかと思いながら職員室へ向かう。
すると担任は、意外な話を切り出した。
「最近、勉強を頑張っているようだな。どこか進学を考えているのか?」
俺は首を横に振った。
そんなこと、まったく考えていなかった。
しかし担任の話によると、このくらいの点数が取れるなら、公立高校も十分狙えるらしい。
少しだけ胸がざわついた。
俺の家は貧しかった。
親は離婚している。
男三人兄弟。
私立高校など、とても無理だ。
だが、公立高校なら話は別だった。
高校へ行けるかもしれない。
そんな考えが、初めて頭をよぎった。
こんな俺でも。
将来を夢見てもいいのだろうか。
高校へ行ってもいいのだろうか。
答えは出なかった。
結局、何も決まらないまま時間だけが過ぎていった。
だが今思えば、この頃からだったのかもしれない。
俺が少しだけ、自分の未来を考え始めたのは。




