第十二話 夏祭りの日の恐怖
数日後。
今度は、あまり笑えない夏の思い出ができた。
夏と言えば、夏祭り。
その日、俺たちは団地の祭りに来ていた。
最初は大勢いた仲間たちも、帰る頃には俺、武司、龍二の三人だけになっていた。
武司の家へ向かう途中、たまたま女の子二人と合流した。
四人で歩いていると、店の前で先輩二人がタムロしていた。
当然のように声をかけられる。
だが、その日の先輩たちは妙に機嫌が良かった。
「公園で飲もうぜ」
そう誘われ、公園へ向かうことになった。
そこにいたメンバーで、酒が飲めなかったのは俺だけだった。
だから自然とパシリ役になる。
「将虎、ウイスキー買ってこい」
言われるがまま、自販機へ走った。
戻ってみると、先輩たちは花火をしながら、なぜかゴミを集めて焚き火まで始めていた。
今考えれば、警察を呼んでくださいと言っているようなものである。
龍二はすでに酔い潰れ、武司は気持ち悪くなったのかトイレにこもっていた。
先輩たちはというと、女の子相手に武勇伝を語っている。
そして――
当たり前のようにパトカーがやって来た。
俺だけはシラフだった。
すると先輩の一人が言った。
「将虎、お前は女の子連れて逃げろ」
さらに続ける。
「ちゃんと送り届けろよ」
俺はてっきり、先輩たちが警察官を相手にひと暴れするのかと思った。
空手をやっているし、学年でも強い先輩だったからだ。
とりあえず女の子たちを近くの路上駐車してある車の陰に隠した。
そして先輩たちの加勢をしようと、公園へ引き返した。
だが、そこで目にした光景に驚いた。
酔い潰れていた龍二は蹴り起こされている。
トイレにいた武司は、すでに確保されている。
そして空手の先輩は、警察官に胸ぐらを掴まれ、そのまま見事な足払いで転がされていた。
もう一人の金髪の先輩は、髪の毛を掴まれ、半ば持ち上げられている。
俺は思った。
強ぇ……。
初めて見る、本気の警察官だった。
あれほど怖かった先輩たちが、まるで相手になっていない。
正直、ビビった。
俺は抵抗する気を失い、そのまま観念した。
箱型のパトカーに乗せられ、警察官から質問を受ける。
「逃げた女の子たちは、どこにいる?」
だが俺は最後まで言い張った。
「もう帰りました」
本当は近くに隠れていたが、それだけは口を割らなかった。
俺なりに、先輩から与えられた役目を果たしたのである。
その後、警察官から少し説教を受けた。
だが、それだけだった。
親にも学校にも連絡されず、俺たちは一人ずつ家まで送り届けられた。
今なら考えられない話かもしれない。
けれど、俺たちの時代には、そんなことが時々あった。
ピンチの中にも、一筋の光が差し込むことが。
少なくとも、この夜の俺たちにとっては、そうだった。




