第十一話 名言
中学三年の夏のある日。
俺たちは土手で花火をしていた。
時間は、まだ日が暮れて間もない午後七時頃。
メンバーは、俺、武司、龍二、昭敏の四人だ。
ロケット花火が、パンパンと乾いた音を響かせる。
しばらくすると、団地の三階から怒鳴り声が飛んできた。
「うるせぇ! どっか他でやれ!」
俺たちは頭にきた。
別に深夜じゃない。まだ七時だぞ。
それに、この土手のすぐ横には団地が建っている。花火の音くらい、毎年聞こえているだろうに。
すると龍二が、その住人と何やら言い合いを始めた。
嫌な予感がした。
そして住人が部屋へ戻った瞬間――
龍二はロケット花火をベランダに向かって放り投げた。
龍二は運動神経が抜群だった。
コントロールも見事なもので、ロケット花火は吸い込まれるようにベランダへ飛び込む。
パンパン!
三階のベランダで花火が炸裂した。
次の瞬間、とんでもない剣幕で住人が階段を駆け下りてきた。
俺はというと、近くの木に登って高みの見物をしていた。
住人は、その場にいた別の子供たちを捕まえて問い詰めている。
「私たちじゃありません! 犯人は逃げていきました!」
そりゃそうだ。
龍二も武司も昭敏も、花火がベランダへ入った瞬間に全力で逃走していたのだから。
俺も木から飛び降り、慌てて後を追う。
その頃、先頭集団は必死に逃げていた。
だが、昭敏だけが遅れていた。
昭敏は足が遅い。
そして案の定――
豪快にすっ転んだ。
昭敏は、どちらかといえば真面目な男だった。
タバコも吸わない。
不良集団の中では、むしろ異色の存在だった。
そんな昭敏が転んだ瞬間、龍二と武司が振り返る。
すると昭敏は、地面に倒れたまま叫んだ。
「俺に構うなぁ! 先に逃げろ!」
その場にいた全員が固まった。
まるで戦争映画のワンシーンである。
普段は目立たず、運動神経も良くない昭敏。
そんな男が、自らを犠牲にして仲間を逃がそうとしている。
いや、別に追手なんて来てないんだけど。
あまりにも悲壮感たっぷりだったので、俺たちは腹を抱えて笑った。
結局、住人が追いかけてくることはなかった。
俺たちは無事に逃げ切り、安堵しながら笑い合った。
学生時代の夏は、思い出が生まれやすい。
それが良い思い出か、悪い思い出かは別として。
この日の出来事は、今となっては笑い話だ。
だが――
数日後。
俺たちは、笑えない方の夏の思い出を作ることになる。




