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旦那様には敵わない

旦那様と両思いになってからというもの、より一層近くなった。

それはもう物理的に。


最初は手を繋ぐだけでも大騒ぎだったのに、今では毎日何度も抱きしめられている。

立っていても、座っていても、気づけば旦那様の腕の中だ。


それがとても嬉しい。


執務室で肩を寄せ合いながら本を読む時間も幸せだった。

時々旦那様がこちらを見て笑うものだから、そのたびに胸がどきどきする。


それに旦那様は言葉も惜しまない。


可愛い、とか。

好きだ、とか。


そんなことを真っ直ぐ言われる度に心臓がうるさくなる。

きっと私は一生慣れることなく旦那様にどきどきしちゃうんだろう。


それでも最近は気絶しなくなった。

緊張はするし、胸は異常なほどほど高鳴るけれど、それ以上に旦那様のそばは安心すると知ったからだ。


今日は旦那様は会議で王宮へ行っている。


こういう日は侍女に色々質問をしてしまう。


「ねえ、私ばかりドキドキしているわ」


鏡台の前で髪を整えてもらいながらため息をつく。


「旦那様は大人だもの、敵わないのは分かっているけど、どうしたら旦那様のこともドキドキさせられると思う?」


侍女は少し考えるように首を傾げてから、ふっと笑った。


「そうですね、奥様が弱すぎる気もしますが、それはさておき」

「弱すぎる……」

「旦那様は奥様にメロメロですが、甘やかす一方です。

奥様から抱きついて好きだと伝えてあげたら、それはもう大変喜ばれるのではないかと。

きっとドキドキもしてくださいますよ」

「えっ」


抱きつく。

私から。


難易度が高すぎるわ。


「で、でも、せっかくアドバイスいただいたのですから、チャンスがあればやってみます!」

「頑張ってください」


にこりと侍女が微笑む。


そうよ。

いつも旦那様から貰ってばかりだもの。


私からも、その、だ、抱きついたりしないと。

じゃないと、いつか飽きられてしまうかもしれないわ。


こういうのは勢いだ。

勢いでやってしまえば、きっと大丈夫。



そわそわしたまま時間が過ぎていく。


今日も旦那様は夕食前には帰ってくると仰っていた。

お帰りなさいをして、一緒に夕食を食べて、そのあと執務室で少しお仕事をされるはず。


よし、そこが狙い目だわ。


執務室で二人きりになった時に、旦那様へ抱きつく。


頭の中で何度も練習する。

想像するだけで顔が熱い。


「奥様、旦那様が戻られます」


執事が声をかけに来てくれた。


「ありがとう、すぐ行くわ!」


玄関へ向かうと、ちょうど旦那様が扉を開けたところだった。


思わず駆け足になる。


「お帰りなさい!」

「ただいま」


次の瞬間、ふわりと抱きしめられた。

なんて自然なの!

旦那様はまるで呼吸でもするみたいに抱きしめてくる。


そのまま流れるようにエスコートされ、リビングへ座らされる。


「すぐ着替えて戻るから、良い子で待っていてくれ」

「は、はい」


旦那様が部屋を出た瞬間、私はぐるんっと侍女を振り返った。


「ど、どうしましょう!」

「大丈夫です」


侍女は落ち着いている。


「旦那様はお手本のようにスマートですが、奥様はまだ初心者です。完璧である必要はありません。奥様らしくいきましょう」

「そ、そうよね。誰だって最初は不格好になるわよね」

「まずは落ち着いて、お夕飯になさってください」

「そうね……せっかくの美味しいご飯、考えすぎて味わえないなんて勿体ないわ」


そうしているうちに旦那様が戻ってきた。


「待っていてくれてありがとう」

「旦那様!」


夕食が始まる。


旦那様は優しい声で今日の出来事を聞いてくれた。


「食事をしながら、今日のリリアーナが何をしていたのか教えてくれ」

「はい」


読んだ本の話。

温室で見つけた花の話。

侍女にたくさんお喋りに付き合ってもらった話。

もちろん話の内容は言えるところだけ。


旦那様はどれも楽しそうに聞いてくれる。


美味しい夕食だった。

デザートまでしっかり完食した。


そして食後。


「リリアーナ、まだ眠たくないか?よければ執務室でもう少し一緒に過ごして欲しい」

「はい!」


ここからが勝負よ、リリアーナ。


本を持って執務室へ向かう。

旦那様は机に向かい仕事を始めた。


私はソファに座って本を開く。

……けれど全然内容が入ってこない。


どうしよう。

どうやって抱きつけば良いのかしら。


仕事の邪魔はできない。

旦那様が一息ついた時が狙い目だわ!


そしてついに。


旦那様が書類から顔を上げ、こちらを見た。


いまだ!


ぎゅう。


思い切って抱きついた。


「おっと、リリアーナ?どうした?寂しかったか?」


むぅ、全然動揺してなさそう。

いつも通りの旦那様だわ。


「す、すきです」


小声になってしまったけれど、これだけ密着していれば聞こえているはず。


旦那様がふっと笑う。


「ああ、まいった。愛しのリリアーナ」


優しい手が頬に触れる。


「顔をあげて」

「え」


ちゅ。


「……へ?」


一瞬、思考が止まった。


「なぜ君はそんなに可愛いんだ。私のことを試しているのか?」

「え?」


い、今のは。


今のは。


「キス……?」


理解した瞬間、頭の中が真っ白になる。


無理。


耐えられない。


バタン。


「リリアーナ!?」

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