重すぎる愛-アルヴェインside-
リリアーナが俺を好きだと、愛していると口にしてから数日。
屋敷の空気まで甘く変わった気がする。
いや、変わったのは俺の方か。
早朝、書類に目を通していても自然と口元が緩むし、廊下を歩けば「今リリアーナは何をしているだろう」と考えてしまう。
完全に浮かれている自覚はあった。
執事にも「閣下、顔が緩んでおります」と言われた。
仕方ないだろう。
愛しい妻が俺を好きだと言ってくれたんだ。
だが、問題もある。
リリアーナが可愛すぎる。
視線が合うだけで頬を染め、
手を握れば震え、
抱きしめれば気絶する。
どう扱えばいいんだ、あの可愛い生き物は。
今朝もそうだ。
朝食前、部屋の前で待っていたら扉が開いて、ふわりと淡い色のドレスを纏ったリリアーナが現れた。
俺が贈ったドレスだ。
「お、おはようございます」
少し照れたように笑う。
その瞬間、抱きしめたくなった。
だが昨日「朝から刺激が強すぎます」と侍女に真顔で注意されたばかりだ。
執事からも、「奥様の体調を最優先に」と念押しされている。
なので我慢した。
我慢したが、代わりに手を取った。
それだけでリリアーナは真っ赤になる。
「旦那様、近いです」
「まだ手に触れているだけだ」
「それがもう、十分近いのです……」
可愛い。
本当に可愛い。
こんな反応をされたら、もっと触れたくなるに決まっているだろう。
朝食中も、向かいに座るリリアーナばかり見てしまう。
スープを飲む仕草も、小さくパンを千切る指先も、全部が愛おしい。
目が合うたびにリリアーナが恥ずかしそうに俯くものだから、つい笑ってしまった。
「そんなに見ないでください……」
「無理だ」
「即答……」
「好きな人は見たいだろう」
ひゅっと肩を揺らして、また顔を赤くする。
耐性がなさすぎる。
朝食後はいつものように執務室へ向かった。
もちろんリリアーナも一緒だ。
以前は少し離れたソファに座っていたが、最近は俺の机のすぐ近くに椅子を置いている。
理由は簡単だ。
近くにいたいから。
今日のリリアーナは植物図鑑を読んでいた。
温室にある花を調べているらしい。
真剣な顔でページを捲る姿が可愛くて、気づけば仕事の手が止まっていた。
「旦那様?」
「いや、可愛いなと思って」
「なっ……」
また真っ赤だ。
本当に毎回染まる。
飽きないのかその顔は。
とうとう耐えきれず席を立つ。
「リリアーナ」
「は、はい」
「少しだけ」
そう言って抱き寄せると、最初こそ緊張していた身体が、ゆっくり力を抜いた。
最近は分かる。
リリアーナも俺に触れられるのを嫌がっていない。
恐る恐るではあるが、ちゃんと身を預けてくれる。
胸元に顔を埋めたまま小さな声が落ちる。
「……安心します」
心臓が止まるかと思った。
「そんな可愛いことを言わないでくれ」
「本当のことです」
「理性が死ぬ」
「り、理性?」
危険だ。
このままだと本当に抱えて離せなくなる。
なんとか自制して身体を離すと、名残惜しくて髪を撫でた。
さらさらだ。
俺の妻は世界一可愛い。
最近では夜も問題だった。
本当は一緒に眠りたい。
抱きしめながら眠りたい。
絶対に幸せだろう。
だがまだ早い。
絶対に早い。
同じ寝室にした瞬間、リリアーナが羞恥で倒れる未来しか見えない。
なので今は寝る前に部屋まで送るだけだ。
それでも扉の前で別れる時、リリアーナが少し寂しそうな顔をする。
あれは良くない。
抱きしめたくなる。
昨夜も危うくそのまま連れ帰りそうになった。
「旦那様?」
「……いや」
「?」
「可愛すぎて危なかった」
意味が分からなかったのだろう。
きょとんとしていた。
助かる。
あの顔で意味まで理解されたら本当に終わる。
会議の日など最悪だ。
リリアーナと離れる時間が存在する。
なので最近は王宮でも仕事を高速で終わらせている。
周囲が引くほどの速度で会議を回し、必要最低限しか話さず帰宅する。
「閣下、最近さらに冷酷になりましたね……」
と部下が呟いていたが知るか。
家に帰れば愛しい妻が待っているんだ。
急ぐに決まっているだろう。
帰宅して玄関に立つリリアーナを見るたび思う。
ああ、帰る場所ができた。
俺の可愛い妻。
俺だけを見てくれる愛しい人。
もっと甘やかしたい。
もっと触れたい。
もっと愛を教えたい。
だが焦ってはいけない。
少しずつ。
少しずつ。
逃げられないくらい、
俺なしでは生きられないくらい、
この愛に溺れさせていこう。




