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しあわせ

旦那様が私を好きだと。

そして私も旦那様に好きだと言った。


心臓がうるさくて、でもとても幸せで。


だんだんと頭がいっぱいいっぱいになってきた。


……私は旦那様がすき。

…………旦那様も私がすき。



放心、とはこういう状態を言うのだろう。

勢いで言ってしまったが、時間が経つにつれて落ち着くどころか、もう完全にキャパオーバーだった。

気を失っていないのが奇跡なくらいで、自分がどこにいるのかさえ曖昧だ。


頭から煙が出そう。


どれほど呆けていたのか分からない。

ほんの一瞬だった気もするし、何時間も経った気もする。


ぼんやりしたまま視線を彷徨わせる。

執務室、かしら。


「リリアーナ、大丈夫か?」


旦那様の声がすぐ近くから聞こえた。


「ひゃっ!?」


状況を理解して、私は飛び上がりそうになった。


い、いま私……!

旦那様の膝の上に抱えられているわ!?


「も、申し訳ございません!」


慌てて降りようとすると、ぎゅっと抱き締められた。


「私の可愛いリリアーナ。また気をやったら危ない」


耳元で低く優しい声が響く。


「良い子だから、今はここに」


ひっ。

な、なにこれ。


旦那様の温もり、香り。

背中に回された大きな手。


全部が近い。

無理。

心臓が耐えられない。


「ぁ……」


そうして私は連日気を失った。


◇◇◇


夕方、目を覚ますと自室のベッドだった。


柔らかな布団。

見慣れた天井。


起き上がろうとした瞬間、手に温もりを感じる。


視線を向けると、旦那様がベッド脇の椅子に座って私の手を握っていた。


「だ、旦那様」

「ああ、起きたか」


旦那様がほっとしたように微笑む。


「すまないな。つい嬉しくて」


嬉しくて、で気絶するまで抱き締められたのかしら。


「どこか苦しくないか?頭痛は?吐き気は?」

「だ、大丈夫です」

「本当に?」

「はい……」


旦那様の目があまりにも真剣で、なんだか申し訳なくなる。


「お水をいただけますか?」

「もちろんだ」


旦那様はすぐに水を用意してくれた。

そして当然のようにコップを口元へ運ぼうとする。


「ひっ」

「……リリアーナ?」

「だ、大丈夫です!一人で飲めます!」


慌ててコップを受け取る。


これ以上は無理。

今はもう許容量を超えている。


旦那様が小さく「残念だ」と呟いていたけれど、聞こえないふりをした。

じゃないと、せっかく目を覚ましたのにまた気絶してしまう。


水を飲んで落ち着いていると、旦那様がそっと私の髪を撫でた。


「リリアーナ」

「はい」

「夢じゃないか確認させてほしい」


真剣な声だった。


「君は私が好きか?」


胸がきゅっとなる。


「……はい」


小さく頷く。


「旦那様が好きです。夢じゃありません」


旦那様は数秒固まったあと、額を押さえた。


「そうか……」


耳まで赤くなっている。


「どうしよう。私は今、物凄く浮かれている」


思わず笑ってしまった。


「ふふ……」


旦那様が照れている。

それが嬉しくて、可愛くて、胸が温かくなる。

私の言葉で、こんなにも喜んでくれるんだ。


「リリアーナ」


旦那様が私の手を包み込む。


「なるべく君が気を失わないように手加減する」


手加減。

やっぱり自覚はあったのね。


「だが、抑えられなかったらすまない」

「えっ」

「あと、嫌なことがあればすぐに言ってくれ」


旦那様の声が少しだけ不安そうになる。


「君に嫌われたくない」


胸が締め付けられた。


こんなにも大切にしてくれている人が、そんなふうに不安になるなんて。


「旦那様にされて嫌なことはありません」


私は慌てて言う。


「でも、もし何かあればすぐお伝えしますね。旦那様も、私に直してほしいことがあれば——」

「無い」


即答だった。


「リリアーナはそのままでいい」

「そ、そんな……」

「むしろこれ以上可愛くならないでほしい。私の理性が危ない」

「っ!」


また顔が熱くなる。


それを見て旦那様はあまりにも嬉しそうに笑い出した。

つられて私も笑ってしまう。


静かな部屋に二人の笑い声が溶けていく。


ああ、幸せだな。

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