意識してほしい-アルヴェインside-
アルヴェイン・クローディアは、執事から言われた言葉をずっと引きずっていた。
――監禁です。
自覚はある。
当然だ。
リリアーナを外へ出さず。
社交も断ち。
男のいる場所へ近づけない。
屋敷の中で穏やかに暮らさせている。
客観的に見れば、十分異常だろう。
だが、リリアーナ自身は困っていない。
むしろ幸せそうだ。
本を読み。
昼寝をし。
穏やかに笑っている。
それなら良いではないか。
何度もそう自分へ言い聞かせた。
◇◇◇
たまに王宮へ会議へ行けば、面倒な探りが入る。
「奥方はまだ療養中なのか?」
「最近全くお姿を見ないな」
「社交復帰の予定は?」
陛下ですら聞いてくるがアルヴェインは適当に流した。
「まだ外へ出られる状態ではありません」
それで十分だった。
事件の件は広まっている。
誰も強くは踏み込めない。
ただ、一人だけを除いて。
誤魔化しきれていない相手がいる。
リリアーナの父親。
伯爵だ。
彼は分かっているはずだ。
リリアーナが、あの程度のことで心を痛めて引きこもる娘ではないことを。
小さい頃からそうだった。
芯が強く正義感がある。
そして冷静だ。
伯爵はアルヴェインをじっと見て言った。
「娘は穏やかに暮らしておりますか」
「ああ」
アルヴェインは即答した。
「不便なく、好きなように暮らしている」
それは事実だ。
リリアーナは毎日幸せそうだ。
すると伯爵は静かに笑った。
「娘が好きに暮らしているなら、それで構いません。
公爵なら大切にしてくださるだろうと思っております」
そこで一度言葉を切る。
そして真っ直ぐアルヴェインを見た。
「ただ、娘を無理矢理縛り付けているのであれば話は別です」
低い声だった。
「その時は連れて帰ります」
アルヴェインの背筋が冷えた。
渡したくない。
そんな感情が即座に湧いた。
けれど表には出さない。
「誓って無理はさせません」
それだけを返した。
◇◇◇
家へ帰れば、リリアーナが迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、旦那様」
柔らかく笑う。
それだけで心が満たされる。
……出来ることなら。
一時も離れたくない。
いつからこんなに狂ってしまったのだろう。
いや、違う。
きっと最初からだ。
婚約前から。
伯爵の娘自慢を聞いている時から。
あの時と変わらず真っ直ぐに育ち、
本が好きで、家が好きで。
無理な社交を嫌っていて。
それなら自分が守れば良いと思った。
自分なら、彼女へ穏やかな生活を与えられると。
婚約してからもそうだ。
滅多に外出しないリリアーナに安心していた。
結婚後も。
屋敷の中で幸せそうに本を読む姿を見るたび、安堵していた。
ずっと。
ずっと独占したかったのだ。
◇◇◇
だが最近、問題がある。
温室だ。
温室へ行くたび、リリアーナが赤くなる。
最初は本気で心配した。
陽が強すぎるのかと思った。
カーテンを増やすべきか。
温度調整を変えるべきか。
だが違った。
原因は恋愛小説だ。
しかも、恋愛小説を読んで赤くなっている。
その事実を理解した瞬間、アルヴェインは内心かなり荒れた。
たとえ物語の人物でも自分以外の男へ心を奪われるなど耐えられない。
恋愛がしたいなら俺とすれば良い。
今まではリリアーナは恋愛へ興味がないのだと思っていた。
自分へ懐いてくれているのは分かる。
だがそれは、父親や兄。
保護者。
そういう感情なのだろうと。
それでも良かった。
その感情で近くへいてくれるなら。
だが違う。
もし恋愛をするなら自分以外は許せない。
もう父親役では駄目だ。
兄のような立場でも駄目だ。
男として見て欲しい。
意識して欲しい。
だから贈り物を始めた。
花に菓子。
ドレスにアクセサリー。
恋愛小説で男たちがしていることを片っ端から真似した。
するとリリアーナは毎回嬉しそうに笑う。
可愛い。
もっと欲しくなる。
温室でのダンスもそうだ。
近づきたかった。
触れたかった。
男として意識して欲しかった。
腰へ触れた時、手を取った時、
リリアーナが緊張しているのが分かった。
あれだけで理性が危うかった。
可愛すぎる。
だが焦るな。
逃げられたくない。
怖がらせたくない。
だから少しずつ。
少しずつ慣らしていく。
恋愛小説を読むたび、リリアーナが自分を思い出すように。
花を見れば自分を思い出すように。
温室へ来れば、自分とのダンスを思い出すように。
そうやって、ゆっくりと。
リリアーナの世界を、自分で埋め尽くしていきたかった。




