恭子と玲子 vol.032 和風割烹「せいざん」
表通りからは見えないが、通りから一歩その小路に踏み込めば、
自然に情緒ある和の雰囲気に体が包まれる。
そして数メートル歩いた先の店の入り口には、
和洋折衷を感じさせる赴きの玄関。
そこには、遊び心を感じさせながらも、どことなく懐かしさをも感じさせるデザインの…、
しかも…、ひらがなで、「せいざん」
その和風割烹のオーナー兼料理長の青山和人。
カウンターで…、今日のメニューは何かと、待ちわびていた安藤智香子、
その真ん前に、
「はい、どうぞ~、お待たせ~。」
「うわっ、凄っ、美味しそう~!!!」
「本日のメニューでござ~い。」
「さっすが~和く~ん。では、早速…。」
出された料理の一品を箸で摘まんで口に運んで味わう。
目の前では、腕を組んで智香子を見つめる青山和人。
「んふふふ…。」
その智香子の顔を一瞬見ただけで、
また組んだ腕を解いて右手に包丁、まな板に向かう。
そして、入り口の方向から聞こえる、新しい客の声に、
そのままの姿勢で顔を向け、笑顔を送る。
傍にいる従業員の門田夏輝がすぐさま、
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました。どうぞ。」
客の一人が、
「もんちゃん、今日も、頼むよ。」
「こちらこそ、ごゆっくりとどうぞ。」
そう言いながら、小部屋に案内する。
フロア的には、決して広くはないが、カウンターがあり、
そのカウンターを中央に、左右に小部屋が数ヶ所ある和風割烹「せいざん」
そして、何とこのお店、スタッフはわずかに2名である。
それでも、都内の和風割烹では、人気ランキングでは目にしないが、
「知る人ぞ知る」的な好感触の店でもある。
その理由が、一切の取材お断りである。
…とは言え、逆にその取材すら申し込まれた事はない。
どうやら、この店を好む客層が、そういう人気店であることを嫌うらしい。
店の雰囲気とその味を、顧客たちが守りたいと言う事らしいのだった。
「…で、こっちはどんな…味…???んふ…。」
智香子。




