第1話 セインベルク上陸
ハークらを乗せた大型帆船が王都の港に到着した。
一行を待っていたのは、物騒な数のローヴェラス騎士団の団服姿であった。すぐさま港に構える組織の駐屯地へと連行、抑留されることとなる。
木板で覆われた待合室に通され、一行は次なる指示を待つ。
「たいそうなお出迎えだったな。こうなるってことはわかってたけど、すっかり有名人になってたみたいだ。俺たちは」
「指名手配犯、の間違いでしょ」
ハークはロゼの言葉に、ははと力なく笑った。
ハークは窓からの景色を眺めた。建物すべてが仰々しく映る。どれもひたすら縦に伸び、隙間なく立ち並んでいた。一貫された完全な都市計画が行き届いているのがわかった。
これまで旅して来たどこの都市よりも、都市機能が飛躍的に発展している。ある区画からは、黒い煙がもうもうと立ち上っていた。
ロゼも隣に並び、ハークと同じ景観を望んだ。
「これが、俺たちがずっと目指していた王都か」
「ずいぶんと息苦しいところね、ここは」
ケイトが椅子に座ったまま、ふたりにちらりと目をやった。
「王宮に近づくにしたがって、空気も人間もましになる」
レイチェルは優雅な身振りをつけながら、うっとりと語り出した。
「宮殿には庭園があってね、季節ごとの花が咲き乱れ、それはそれは見事なものだ。夜になれば幾千もの明かりが街を包むのだ。あらゆる場所で夜会が開かれ、華々しいお喋りやダンスに興じるのだよ。さながら毎日が光と音楽の祭典と言うところかな」
フィルはやれやれと首を振る。
「まったくもって、わしの性には合わん。理解しがたいわい。この国は蟻地獄みたいなもんだ。あの中心部に近づくにつれて、足を取られて身動きがとれんくなる」
フィルの言う通り、ここから望むだけで、王宮に向かってすべての機能が円状に収束していくのが見て取れた。
部屋の隅では、ずっとラピスラズリの声がきんきんと響いていた。
「ケイトは王族なのよ!こんな扱いしてただで済むと思ったら大間違いなんだから!」
「本当に学びませんね。たびたびあなたの暴挙を抑止する僕の身にもなってほしいものです」
アルフレッドは、扉に取りつこうとするラピスラズリを羽交い絞めにしていた。セインベルクでは王都のリストに登録された、正規の獣使いが多く雇われているので、往来の人々は召喚獣の姿も見慣れているのだった。むろん、都市全体が獣を寄せ付けない聖域でもない。
必ずしも両者が人の姿に化ける必要はないのだが、すっかり板についてしまっていた。なにより、よそ者に対する警戒もいくらか解かれることから、ロゼはアルフレッドの姿をそのままにしておいた。
そのとき、数名の靴音が廊下から響き、扉が開いた。とっさにアルフレッドはラピスラズリの首根っこを掴んだまま飛びのく。
先頭に立つ人物は面識がある者もいた。黒髪を硬派になでつけた長身の男は、一行を見定めるようにじろりと視線を動かした。そして、思っていたよりも人数が多いことに少々うろたえた。そっとこめかみを抑える。
「報告の人数が妙に多いと思えば。どうして聖獣博士どのと、阿呆詩人までここにいる」
レイチェルはケイトの背中を盾にして、気まずそうに視線を逸らした。
ケイトはそれを振り払い、前に出る。
「よく会うな、ライセント。こそこそと俺らをつけまわして、今度は監禁か?一兵卒風情が身の程をわきまえろ」
「かつての戦友にそれはないだろう。それに、残念ながらそれは誤りだ。俺は此度昇格して軍団長に叙された」
「貴様のくだらない自尊心はいっこうに変わらないな」
ケイトの言葉に対して、ライセントは露骨に舌打ちするとその顔の前に一枚の書類を突きつけた。
「聖獣使いの女を、ただちに騎士団本部へ移送する。登録が必要だ。貴様が城をあけているあいだ、獣使いを統括する権限は正式にこちらへ移った。つまり獣博士どのも聖獣使いも魔獣使いも、我々の要請には従う義務がある」
フィルは、深いためいきをついた。
「お前らの望みはいったい何だというのだ。強い国づくりか?それにはまだ獣使いの増員が必要か?少し前まで、獣博士の立場は時代遅れではなかったか?」
ライセントは、フィルをじっと見据えた。他の団員も同じ目をしている。
「今の世は、博士の知恵を必要としている。再び獣の時代が巡ってきたのだ。貴殿はただ、この機運に乗じればよい」
「手のひら返しか。気味が悪いわ」
フィルの横から、唐突にロゼは口を挟んだ。
「あんたたちね」
ライセントは、子鼠を見るように眉をひそめた。
「気をつけたほうがいいわよ。もっと大きな力に操られてることに、そろそろ気づいたほうがいい。知らないってことはないでしょ、オレガノの民の噂」
ライセントは一笑に付し、こいつらを連れて行けと他の団員たちに身振りで知らせた。しかし、レイチェルとハークのみ、手荒に釈放されたのだった。




