第7話 オーラヘヴンの街
いくつかの港を中継し、終着点に着いた。
海沿いには商店や豪奢な住宅が立ち並び、気品あふれる街だった。
街のシンボルのような青い煉瓦造りの時計台に、尖塔が天に向かって伸びている。
ロゼとハークは興味深そうに、あたりを見回しながら下船した。
船着き場を降りてすぐのところには、銀のアーチに「オーラヘヴン」と刻まれていた。この街の名前だ。
「今夜はこの街で宿をとることになる。お前たちの目指す聖獣の森は、ここの裏手から広がっているんだ」
ケイトは商人の行き交う石畳の街道を先導した。
なだらかな坂道が続いており、通りは広い。
現地の人々は、革製の服を着ていることに気づいた。
数日前から船上でも、日暮れから肌寒さを感じるようになった。
船は体感よりも、ずっと長い距離を北上していたのだった。
たどり着いた宿は、煉瓦の造りに厚いガラスがはめ込まれていた。これまでハークとロゼが目にした中で最も高級な宿だった。
木製の扉を開けると、そこに取り付けられた小さな鐘が控えめに鳴った。
「やったぁぁ!久しぶりの休息って感じだよ!」
部屋に入ると、ハークは荷物を投げ出し、脱力した。
寝室の分かれた、大部屋だ。フィルが皆の疲労をねぎらい、提案したのだ。中央の部屋は一同が集まれるほどの広さがあった。
「ずうっと働かされていたものね。お疲れ様」
ロゼは、ハークの荷もせっせと片付けてやった。
ケイトも慣れない漕ぎ手から解放されたことに安堵し、椅子に沈んでいた。
「悪いが、聖獣の森にはお前たちだけで行ってきてくれ」
ケイトは、ぐったりした様子でそう言った。ハークは拍子抜けする。
「お前ら、俺たちの監視はもういいのか?」
「そんなことしなくても、この地からどこにも行けやしないだろ。ビビってるなら言うが、危険に遭遇することはまずない。聖獣は人間を襲わない」
「お互いそのほうが気を遣わないでいいわね」
ハークはかなりむっとしたが、ロゼは気にしたふうでもなかった。
「わしもしばらく動けそうにないから、待っとるわ」
フィルは、先の海獣戦で案の定腰を痛めたらしく、コルセットを巻いている。冷えると痛みが増すと言っていた。ロゼはフィルが座るのを手伝った。
「わかってはいるけど、残念ね。聖獣博士なら『聖獣の庭』なんて聞いたら、何としてでも行きたいんじゃない」
「そりゃあ行けるならば、這ってでも行きたいところ。だが、わしにはたどり着けなんだ。過去に何度かここへ来て、試みたことはある」
ロゼとハークは、不穏な話に顔を見合わせた。
「それ、どういうこと。聖獣は人を襲わないんでしょう」
「つまり、そこに行くまでに、何かあるってワケ?」
フィルは、うーんと唸った。
「うまく言えんが、聖獣たちの気にあてられる、という感じかの」
「全然わかんないよ」
ハークは首を傾げた。ロゼは、何となく納得したような表情だった。
「聖獣って、本当に純な生き物なのよ。純粋すぎるから、他の生き物を寄せ付けないの」
ハークはアルフレッドを想起した。やつが純粋かどうかは、自分にはわからないと思った。狡猾で皮肉屋な性格は、あとから主のロゼに似たのだろうか。
「僕とロゼなら、大丈夫なのか?」
「行ってみないと分からんさ。だが、おぬしらのほうがまだマシなんじゃないか」
「どういうことだよ…」
ハークは、言葉を濁すフィルを見て、らちがあかないと感じた。
「ケイトー。お前が行きたがらないのも、何か関係してるんだろ」
「ああもう煩い。休ませろ」
「ハーク少年。ケイトの邪魔しちゃだめよ」
ラピスラズリが笑顔で、しかし有無を言わせぬ様子でハークを椅子から引き離した。ハークはやるせなくなって、ため息をついた。
「充分わかったよ。お前らが嫌がる何かがあるってことはな」
「知らないほうが身構えなくていい。案外お前みたいなタイプは、何ともないんじゃないか」
ハークには、ケイトの言葉の意味が分からなかったが、何となく馬鹿にされている気がした。ロゼとハークは相談するまでもなく、明朝に出発することに決めた。




