表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第四章 聖獣の庭、追憶のしらべ
50/136

第7話 オーラヘヴンの街

 いくつかの港を中継し、終着点に着いた。

 海沿いには商店や豪奢な住宅が立ち並び、気品あふれる街だった。

 街のシンボルのような青い煉瓦造りの時計台に、尖塔が天に向かって伸びている。

 ロゼとハークは興味深そうに、あたりを見回しながら下船した。

 船着き場を降りてすぐのところには、銀のアーチに「オーラヘヴン」と刻まれていた。この街の名前だ。


「今夜はこの街で宿をとることになる。お前たちの目指す聖獣の森は、ここの裏手から広がっているんだ」

 ケイトは商人の行き交う石畳の街道を先導した。

 なだらかな坂道が続いており、通りは広い。

 現地の人々は、革製の服を着ていることに気づいた。

 数日前から船上でも、日暮れから肌寒さを感じるようになった。

 船は体感よりも、ずっと長い距離を北上していたのだった。

 

 たどり着いた宿は、煉瓦の造りに厚いガラスがはめ込まれていた。これまでハークとロゼが目にした中で最も高級な宿だった。

 木製の扉を開けると、そこに取り付けられた小さな鐘が控えめに鳴った。


「やったぁぁ!久しぶりの休息って感じだよ!」

 部屋に入ると、ハークは荷物を投げ出し、脱力した。

 寝室の分かれた、大部屋だ。フィルが皆の疲労をねぎらい、提案したのだ。中央の部屋は一同が集まれるほどの広さがあった。


「ずうっと働かされていたものね。お疲れ様」

 ロゼは、ハークの荷もせっせと片付けてやった。

 ケイトも慣れない漕ぎ手から解放されたことに安堵し、椅子に沈んでいた。

「悪いが、聖獣の森にはお前たちだけで行ってきてくれ」

 ケイトは、ぐったりした様子でそう言った。ハークは拍子抜けする。

「お前ら、俺たちの監視はもういいのか?」

「そんなことしなくても、この地からどこにも行けやしないだろ。ビビってるなら言うが、危険に遭遇することはまずない。聖獣は人間を襲わない」

「お互いそのほうが気を遣わないでいいわね」

 ハークはかなりむっとしたが、ロゼは気にしたふうでもなかった。


「わしもしばらく動けそうにないから、待っとるわ」

 フィルは、先の海獣戦で案の定腰を痛めたらしく、コルセットを巻いている。冷えると痛みが増すと言っていた。ロゼはフィルが座るのを手伝った。

「わかってはいるけど、残念ね。聖獣博士なら『聖獣の庭』なんて聞いたら、何としてでも行きたいんじゃない」

「そりゃあ行けるならば、這ってでも行きたいところ。だが、わしにはたどり着けなんだ。過去に何度かここへ来て、試みたことはある」

 ロゼとハークは、不穏な話に顔を見合わせた。

「それ、どういうこと。聖獣は人を襲わないんでしょう」

「つまり、そこに行くまでに、何かあるってワケ?」

 フィルは、うーんと唸った。

「うまく言えんが、聖獣たちの気にあてられる、という感じかの」

「全然わかんないよ」

 ハークは首を傾げた。ロゼは、何となく納得したような表情だった。

「聖獣って、本当に純な生き物なのよ。純粋すぎるから、他の生き物を寄せ付けないの」

 ハークはアルフレッドを想起した。やつが純粋かどうかは、自分にはわからないと思った。狡猾で皮肉屋な性格は、あとから主のロゼに似たのだろうか。

「僕とロゼなら、大丈夫なのか?」

「行ってみないと分からんさ。だが、おぬしらのほうがまだマシなんじゃないか」

「どういうことだよ…」

 ハークは、言葉を濁すフィルを見て、らちがあかないと感じた。

「ケイトー。お前が行きたがらないのも、何か関係してるんだろ」

「ああもう煩い。休ませろ」

「ハーク少年。ケイトの邪魔しちゃだめよ」

 ラピスラズリが笑顔で、しかし有無を言わせぬ様子でハークを椅子から引き離した。ハークはやるせなくなって、ため息をついた。

「充分わかったよ。お前らが嫌がる何かがあるってことはな」

「知らないほうが身構えなくていい。案外お前みたいなタイプは、何ともないんじゃないか」

 ハークには、ケイトの言葉の意味が分からなかったが、何となく馬鹿にされている気がした。ロゼとハークは相談するまでもなく、明朝に出発することに決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ