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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第四章 聖獣の庭、追憶のしらべ
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第3話 夜、停泊場

 ハークたちは、さらに丸一日かけて大森林を抜けた。獣との遭遇はなかった。湿気の多い森林地帯は、獣にとっても住み心地が悪かったのかもしれない。

 その日は天気もあまりいいとはいえず、ロゼはまたもや体調を崩した。

 そうして、さびれた停泊場に到着したのは、夜である。

 一同、翌日の船出に向けて宿を探した。停泊場があるということは、周辺に船乗りや乗船客が止まるための宿があるはずだった。


「聖獣の庭」と呼ばれる場所に最速で向かうには、海を移動する必要があった。といっても、大海を渡るわけではなく、陸地づたいを走行するような船旅だった。

 しかし、王都からの追手のこともあり、目立った行動は避けたかった。フィルとケイトは宮廷務めという身分を隠すことにしている。

 王都から発行された特別な通行証も使用しないことにした。一般人として振舞う必要があるため、できるだけ簡素な船が好ましいとなった。漕ぎ手には、もちろん自分たちも含まれる。要するに、表向きは一気に貧乏旅へと転落してしまったのだ。


 一同は、疲労のたまりを紛らわせるように、歩きながら会話を始めた。

「ロゼ、これからはもう少し体力をつけたほうがいいんじゃない?」

 ハークはロゼの分の荷物も持ちながら、日ごろの鍛錬を勧めた。

「返す言葉もないわ。重ね重ね、申し訳ございません」

「いや、責めてるわけじゃないよ。ただ疲れやすいと、この先ロゼ自身もきついでしょ」

 ハークの言葉に、フィルはその通りじゃと笑いかけた。

「無理はしないほうが良いが、心身の健康には適度な運動が一番じゃ。ケイトのやつも昔は病弱だったが、軍の訓練であの通り」

「ケイトって軍にいたの?すごいじゃん!」

 ハークは目を輝かせた。漠然と剣士を志すハークにとって、幼いころより王都の軍に憧れていた名残だ。

「必要があったから籍を置いていただけだ」

「たしかに、あんたの剣の扱い方は軍のそれよね」

 ロゼは、ケイトがハークと剣の試合をしていたときの構えを思い起こした。

 ハークはその一言で、自身の敗北を思い出し、げぇと苦い顔をした。

 一方のケイトは、別のことを思ったらしい。

「そういやハーク。おまえ、いったい誰に剣術を習ったんだ?」

「はいはい、どうせ俺の剣はでたらめですよ」

 ハークは自嘲気味に言い捨てた。以前ケイトに、お前の剣術はでたらめだと言われたのだ。

「俺らの王宮式に比べたら、そりゃあでたらめだ。だが、どうも既視感があるような気がしてならない」

「俺が剣を習ったのは、流れ者みたいな人だよ」

「取り消しなさい、ハーク。《《騎士様》》よ」

「やだね。俺から見れば、騎士道からは程遠い人だった」

 ロゼはムキになって訂正を求めたが、ハークは肩をすくめた。

「怒るなって。尊敬してるのは事実だ。ただ俺が弟子入りしたのは、騎士様じゃなくて、いつもいい加減で軟派な師匠だよ」

「ハークの言う師匠って、本当にあのナイト様と同一人物なのかしら」

 ロゼは眉をひそめ、不安に陥るのだった。

「んで、ケイトはその人に心当たりがあるのか?」

 ハークはケイトの言う「既視感」が何かの手掛かりになるのではないかと、一応彼に詰め寄ったが、「何か思い出したら言おう」との返答だった。

 里を出てから旅で一緒に過ごした時間によるものか、ケイトの一応協力的な態度にハークは少し嬉しくなるのだった。


 その夜、一同は久々に屋根の下でひと息つくことができた。

 ハークとケイトは同室。そして、いびきが煩いと内々からも苦情の出るフィルには一部屋。

 追われる身であるロゼは、念のためラピスラズリと同室になることを勧められた。

 その目的が、護衛よりも監視の意味合いだということにロゼは気づいていたのだが、特に断る理由も無かったので従うことにした。

 ロゼは、アルフレッドが知れば激昂することだろうと思った。

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