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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第19話 新たなる旅立ち

 ロゼ一行は、里を出ると険しい山道へと足を踏み入れた。

 比較的整備された道が続いているうちに、今夜の野営に適した場所を確保する必要がある。先頭にハーク、ロゼ、そしてフィル、ケイト、ラピスラズリと続く。

「あのさ。獣の襲撃があるなら、すべての都市や村を聖域にしようってならないの?」

 ハークは新たに浮かんだ疑問を口にした。即座に応じたのは、ケイトだった。

「その規模で特定の場所を聖域に指定するには、王都の許可がいる。フィルのやったことは完全に違法だ」

「相も変わらず、おぬしの頭は固いの」

 フィルは、やれやれと肩をすくめた。

「いい加減、おぬしもわかっておるじゃろうて。それこそ、近辺を支配しやすくするための都の目論見よ」

「周辺都市の力をそぐための、か」

「わかってきたじゃないか」

 ケイトの言葉にフィルは満足げだ。

 ハークが思うに、ケイトは王都の方針に対して疑問を持ち始めたようだ。

 いや、そもそも初めから完全に心酔しているようには見えなかった。服従を余儀なくされ、思考を止めているように見えていたのだった。


「まぁ何でも良いじゃないか。行先はセインベルクじゃないんだからな。ハハハ」

 フィルは歯を見せて、愉快愉快と笑った。一方で、魔獣ラピスラズリは泣きそうな声で叫んだ。

「ほんとに知らないわよぅ。みんなどうかしちゃってるわ」

 一同の王都行きは、延期となった。

 ロゼがアルフレッドを召喚できなくなったということを皆に告げると、ケイトは茫然自失の状態に陥った。聖獣を召喚できないことには、獣使いの登録をする以前の問題だという。

 何としてでも、アルフレッドを呼び戻せとロゼに強く言った。

 そして、ケイト自身の悩みも、もはやそれどころの騒ぎではないようだった。神経質そうにこめかみを抑えては、いらいらと歩き回り、ラピスラズリになだめられる始末だった。

 しかし結果、彼もまた「聖獣の庭」と呼ばれる場所へロゼらとともに行くことを決めたのだった。

 目指す場所については、心当たりがあるらしいので、ロゼにしても好都合ではあった。単純に戦力としてもありがたい。

 ハークはというと、ケイトの執念じみた意地に呆れた。

 そして、自分たちを監視し王都まで連行する、というのは今や彼にとっての名目にすぎないということを、うすうす感じ取っていた。

 おそらく彼には、考えるための時間が必要なのだ。王都のやり方と自分たちの関係について。それ以上の詳細は今のところ見当もつかない。

 従順なる召喚魔獣のラピスラズリだけは、王都行きの中止に反対していた。主人の立場が危うくなることを阻止しようと、未だ躍起になっている。

 ロゼは、甲高い声で騒ぎ立てるラピスラズリをたしなめた。

「ラピスラズリ、聞き分けが悪いのね。アルフレッドなら、何があっても私の決定に従ってくれるわよ」

 ラピスラズリは、何かと折り合いの悪いアルフレッドの名を引き合いに出され、すっかり拗ねてしまった。


「ロゼ、大丈夫?」

 ハークは山道を歩き慣れないであろうロゼの身体を気遣った。

「平気よ。でも、いつもアルフレッドの背に乗っていて気づかなかったわ。こんなに足って痛くなるのね」

「嬢ちゃんは女の子だから、気の毒じゃの。疲れたら、今度は早めに言いなさい」

 フィルの気遣いに、ロゼは自分が里に来る前に倒れたことを思い出し、そうさせてもらうわと素直に頷いた。

 当のフィルは、宙に浮く絨毯を器用に扱っている。王都に支給された一人用の乗り物だ。足を使わなくていい代わり、なかなかに神経を使うらしい。他の者には、まるで乗りこなせなかった。

 体力自慢のハークは疲れ知らずだった。傷はまだ痛んだが、医療の知識を心得るフィルが同伴なので安心だった。

 ケイトも問題なさそうだった。ずいぶん旅慣れしているのがわかった。行動に無駄がない。


 何かとロゼに世話を焼くハークを見て、ラピスラズリは「あーあ」とため息をついた。

「ロゼはいいわねぇ。アルフレッドが居なくたって、小さなナイトがついていてくれるんだから」

 ラピスラズリの言葉に、ハークはまた要らないことを、と恨めし気に振り返った。

 ロゼの「騎士様」と比べられることに対して、いい加減嫌気がさしていた。

 これまでアルフレッドが異様に自分をあの男の弟子扱いし、そのたびロゼに違う違うと言われ続けてきたのだった。

 わかっていてももうまっぴらだった。

 しかし、言った魔獣に他意はない。

 ハークの胸中とは裏腹に、ロゼは歩を進めながら少し微笑んだ。

「そうね。ハークのことは頼りにしているわ」


 ロゼの言葉に、皆は少し意外そうに目を丸くし、しかし一同気恥ずかしくなり、それからしばしの間、沈黙が場を制したのだった。


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