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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第17話 弛緩

「何度試してもだめだった。もうアルフレッドを、召喚できないかもしれない」

 ロゼは肩を落として、ハークに打ち明けた。

 そのあいだにも彼女の瞳からは、はらはらと涙がこぼれおちていた。頼りなさげに、両の手を宙に浮かす。

「どれだけ呼びかけても、だめなの。手繰り寄せても、手繰り寄せても、何も掴めない」

 ハークは愕然とした。これまで考えてもみなかったことだった。


 ハークは、ロゼから「召喚とは磁力のようなもの」だと説明されていた。

 契約した獣のことを、本来は一時的に引き寄せる行為だという。

 それをロゼは、聖獣のアルフレッドを常時、召喚したままの状態にして連れていたのだ。それは獣使いとして、そうとう無茶をしていることだった。

 ロゼは、なぜか長時間の召喚に耐えることに特別秀でていた。アルフレッドという強力な聖獣だとしても、造作もないことだった。

 しかし、それがあだとなったらしい。

 ずっと繋がっていたものが突然途絶えたことによって、反動が凄まじいものとなった。結果として、修復の難しい事態となってしまったと。

 以上すべてのことは、あくまでロゼの推測にすぎないのだが。

 

 ハークはロゼからの怒涛の説明を受けながら、えっと、ちょっと待ってよ、などと言いつつも何とか事態を理解した。

「じゃ、今アルフレッドはどこにいるっての?」

 ハークは一番の疑問を口にした。

 獣使いはどこから獣を呼びよせるのかという疑問がわいてきたのだ。

 この時初めてハークは、これまで召喚の仕組みについてちっとも関心を持ってこなかったということを実感した。

「通常の獣使いなら、普通に山や森から呼び寄せるわ。でも、アルフレッドのように聖獣となると…」


 ロゼは繊細な言葉を口にするように、声を潜めて呟いた。

「『聖獣の庭』、よ」

「庭?それ、どんな場所?どこにあるの?」

「見たことはない。でも知ってるわ。ここよりずっとずっと北。『七色の光が差しこむ、湖のほとり』よ」

「それ、師匠がそう言ってたの?」

「そうよ」

 ハークは、ため息をひとつついてから、わっと頭をかいた。

「だーっ!師匠の言葉はいっつも抽象的すぎる!!これならフィルやクジャールさんに聞いたほうがましだよ」

「そんなことないわ。ナイト様は重要なヒントを残してくださったのよ」

 ロゼは大真面目な顔で、人指し指をハークの鼻の頭に立てた。涙はもう引っ込んだらしい。


「私、ここに来てせっかく掴みかけてたのに。自分が何者か。なのにまた根無し草になってしまったわ」

ロゼは、座ったまま足をぶらぶらさせて呟いた。

「ねぇ、お先真っ暗よ。王都へ行って、聖獣使いの登録どころじゃない。いまの私は聖獣使いでもなんでもない、何もできない人間だから」

「何がらにもなく弱気になってんだよ。これからすることなんて決まってる。アルフレッドを迎えにいこう」

ハークは、言いながら立ち上がった。

「ケイトのやつには、俺から話をつけるよ。あいつも、色々あったらしいから。一度、ちゃんと話をしなきゃいけない」

「うん」

ロゼは珍しく素直に頷いた。

「…私、ハークと出会えてよかった。いま初めて心からそう思った」

ハークは面食らったが、調子のいいやつだなと笑った。ロゼはその笑顔を見て、いくらか救われた気持ちになるのだった。

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