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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第14話 奮闘

 しばらく姿を見せなかったフィルは、長らく族長とともに居た様子だった。

「おお、ハーク!来てくれたか!」

「ロゼとケイトは、魔獣使いの方を探しに行った」

 ハークの言葉に、フィルは賢明だと頷いた。

 目の前では、クジャールの召喚獣が、魔獣と熾烈な争いを繰り広げている。

 今は下手に入りこむ余地はなさそうだった。


「しかし、この里に刺客をよこすとは…今度という今度は村人もそやつを許すまじ。侵入者を引きずり出して、王都の情報を吐かせてやろうぞ」

 クジャールは、怒りのあまり手にした大剣を地につきたてた。

 ハークは、王都が関わってるとは限らないのでは、と思ったが口には出さなかった。

「そういえばフィル殿から聞いたが、少年は聖獣の力が込められた剣を持っているのだな」

「何か知ってるんですか?」

「知っているも何も、以前は里でもそのような武器を作っていたのだ。もうその技術は途絶えてしまったが、まだ品が出回っているとはな」

「え!今、何と!?」

 ハークは聞きたいことが山のようにあったのだが、同じタイミングでクジャールの召喚獣がいななきをあげ、ばったりと横たわった。吹きとばされた拍子に身体を強く打ったか、気を失っているようだった。

 他の獣使いの召喚獣も、ばたばたと広場に横たわっていた。フィルは、獣博士らしく速やかに召喚獣たちの手当てに奔走した。


「少年、ゆくぞ。魔獣使いが見つかるのを待つまでもない。ここで倒すのだ」

 クジャールは、年を感じさせないほど好戦的な男だった。数人の護衛を連れ、大剣を手に一切物おじせず魔獣に向かってゆく。

 ハークも慌てて後を追った。

 護衛の男たちは、真っ先に魔獣の突進を受けた。彼らの剣は、鱗のごとく固い魔獣の皮膚に対して、まるで役に立っていないようだった。魔獣は歪な翼をもっており、人々を嘲るかのように低空を飛び回るのだった。矢も同様にまるで通さなかった。


 クジャールは、私がしばし気を引こうとハークに告げた。クジャールの背丈ほどもある大剣はよく魔獣の目を引いた。

 しかし、大剣による重い一撃をもってしても、魔獣にとってはかすり傷程度のものでしかないようだった。第一、激しく飛び回るため、狙いが定まらない。

 ハークは、そのすきにそばにある見張り塔を駆け登った。そして、うまくタイミングを見計らい、飛び降りることで高さをつけて斬りつけるという算段だった。

 登ってみると、家々の屋根よりさらに高い。風が吹くたび、木組みの塔はぎしぎしと揺れるのだった。予想はしていたが、やはり足がすくんだ。

 ―いや、こんなところでびびってる場合かよ。落ち着け!

 ハークは必死で、魔獣の飛行を目で追った。クジャールの護衛たちが魔獣をうまく真下に誘導してくれている。こんな好機を逃すわけにはいかない。

 ともかく、自分は早く魔獣の弱点である刻印を見つけなくてはならなかった。

 レオセルダの魔獣も、そのようなケイトの助言を得て倒すことができた。そのときに、魔獣の身体には召喚主との契約の証が刻まれているらしいことを知った。ケイトはその後、その件について詳細に話すことを嫌がったのだが。

 瞬きすら忘れ、魔獣の動きを目で追う。


 しかし次の瞬間、魔獣は予期せぬ動きで、見張り塔の上に立つハークの視線と同じ高さまで飛びあがってきた。護衛たちの、しまった!という声が下から聞こえた。

 しばし、魔獣と目が合った。猛禽のような姿だったが、やはり自然界の生き物とは思えないグロテスクな獣だった。

 ぎらぎらと赤く光る鋭い瞳。薄笑いを浮かべたような裂けた口から覗く赤い舌。

 ハークは、いつの間にか自分が信じられないほどに、落ち着いていることを自覚した。

 まるでこの瞬間を待っていたかのように、構えていた剣に力を込め、真一文字に振りぬいた。

 魔獣は一度飛びのくも、再びハークに狙いを定め、まっすぐ向かってきた。鳥のような鋭い爪でハークの攻撃をはじく。その重量に、ハークは体勢を大きく崩すこととなる。

 塔からの転落を防ぐ柵に背中が触れると、全身が総毛だった。背後から落ちたら、ひとたまりもないだろう。何しろ村の家屋よりも高いのだから。

 すぐに体制を立て直し、再び剣を構えた。

 ―俺は覚悟を決めたんだ!こんなところで、立ち止まってられるかってんだ!

 魔獣は、大きく翼を広げてハークを威嚇した。塔の明々としたかがり火の近くでその姿を見ると、翼の内側は驚くほど奇抜な色合いだった。そして、その翼の左側には、巨大な目の文様が狂気的な力をもって、見開いていた。

 ハークは、手のひらに食い込むほど強く剣を握りしめ、思い切り間合いを詰めた。

 魔獣が暴れ、その両足の爪がハークの肩を傷つけると同時に、ハークは迷うことなく左の翼を斬りつけた。


 魔獣の姿は例に違わず、暗黒の雲のごとき灰の塊へと姿を変え、ハークの血とともに地へと流れ落ちた。

 飛び散った奇抜な色の羽根だけは、未だひらひらと周囲を舞っていた。

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