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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第11話 模擬戦

「おい、ケイト。俺が勝ったらさっきの言葉、取り消せよ」

 ハークは剣を構えたまま、啖呵を切った。

「素人のでたらめだってやつか。それは今から証明されることだろうが」

 ケイトの声はけして大きくなかったが、よく響いた。

 周囲が息をのむのがわかった。どこからともなく集まった老若男女の見物人である。

 日ごろから娯楽に飢えた里の民たちにとっては、格好の見世物のようだった。

「あの男、なかなかはっきり言いますね」

 アルフレッドは感情のこもってない様子で、同情を示した。

「機嫌悪いのが一目瞭然ね。にしてもあいつ、剣を扱えたのね。大弓を携えていたから、あまりイメージがなかったわ」


「さっさと終わらせるぞ」

 小さく息を吸い、ケイトが踏み出したのを合図に、模擬試合が始まった。

 遠目に見ていたロゼが驚くほど、それは整然とした無駄のない攻め方であった。

 的確にハークの剣を自身の剣で殴打するが、ハークもうまく応戦している。

 しかし、互いの自尊心をかけた本気の勝負とはいえ、今後のことも考えて、怪我をさせるつもりはないらしい。

 多少真剣みに欠けた勝負だというのは否めなかったので、実戦以外興味のないアルフレッドはすぐに飽きてしまっていた。

 一進一退の攻防が続いた。はじめこそ緊張感があり、互いに一歩も譲らぬ気迫に満ちていたのだが、徐々に両者の癖が露呈し始めた。

「何を見せられているのだか。つまんないわ」

 ロゼもついに見るのをやめた。それとほぼ同時に、勝負がついたようだった。木彫りの剣がからんと地面に落ちる音を聞いた。


 群がっていた見物人たちは、満足してばらばらと家路についた。

 西の空が赤く染まり、鴉の鳴き声がした。遠く虫の音も聞こえ始める。

「ハーク、ご苦労様」

 ロゼは地面に伸びているハークに水を持って来たのだった。

 ハークは脱力しているだけで、みっともなく取り乱してはいなかった。

「あいつに負けて悔しいのね」

「…」

「何とか言ったら」

「……悔しい」

 ハークは空を仰いだまま、茫然としていた。


「気を落とすことはないわ。あいつは王宮の訓練を受けているから、型を叩きこまれているのよ。模擬戦で勝つためのね」

 返答のないハークに、ロゼは聞いてるかと確認した。

 ハークは寝転がったまま、ロゼに背を向ける形へと体制を変えた。

「本当の戦闘となればまた違ってくるわよ。形式ばったお手本だけじゃ通用しないもの。第一、剣に自信があるのならあの男は普段から剣を振るうはずでしょう」

 ロゼは、黙ったままのハークの反応をいつまでも待った。


「ケイトは、『ろくに教わっていない素人が教えるな。でたらめを継承してどうする』って言ったんだ」

「なるほどね」

 ロゼはいつも通りの抑揚のない声で応じ、いつまでも起き上がってこないハークの隣に座りこんだ。

 ハークにとって耳が痛い言葉だったろうと思った。ナイトの剣術と意思を継ぐという思いが、何よりハークを突き動かしていると感じるからだ。


「俺は、師匠の背中を追いかけてるつもりなんだけど」

「うん」

「まだまだ遠い」

「うん」

 ロゼは遠いね、と繰り返した。

 夕日の方角を見渡せば、これから超えることになる鬱蒼とした山々が深い影を落としていた。ハークも同じ景色を見ているようだった。先の見えない、これからの行く手を。

 ひとまずロゼは、手のひらに収まるほどの竹筒に汲んでおいた水を再びハークに勧めたのだった。

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