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聖獣の庭、あるいは忘却曲線  作者: 蒼乃モネ
第三章 星降る獣の里、記憶の断片を
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第10話 記憶の鍵

「ようやく解放されたわね」

「はい。お疲れさまでした、ロゼ」

 ロゼとアルフレッドは、村人に質問攻めされた挙句、族長の屋敷に呼ばれ半ば強引に午後の食事を振舞われた。

 昨夜の怪しげな里の空気とは一変したような、穏やかな里の空気にまだ拍子抜けしている。

 木漏れ日が降り注ぎ、小川の流れが聞こえた。


 ロゼは慣れないことをするものではないと感じるのだった。どっと疲労が押し寄せてくる。

「今日の出発は無理ね。朝の時点でこうなるとは思ってたけど」

「我々だけ食事を頂いたのですから、良しとしませんか。それよりもロゼ」

 アルフレッドは周囲に人がいないのを確認し、声を潜めた。

「本当に王都へゆくおつもりですか」

 ロゼは足を止めた。アルフレッドも同様に。

「聖獣使いだというので、目をつけられていたのは気づいていたでしょう」

「あの男のこと」

「そうです。彼らはロゼのことを徹底的に監視しています。おそらく王都へ売るつもりでしょう」

「ま、登録だけで済むとは思ってないわ」

「もちろんです。そもそもフィル博士との出会いから、仕組まれていた可能性があります。レオセルダでケイト殿と合流して我々を引き渡す予定だったのでは」

「それも、考えたわ」

 ロゼは目を閉じた。面倒な考え事から目を背けたいという思いからだった。

 そして、アルフレッドのことを我が召喚獣ながらよくできた子だと思った。

 思考からの危機管理力で、この子を超える獣などいないのではないかとも。


「でも、どのみち王都へは行く予定だったじゃない」

「このような形でとは、誰も思いません」

「あなたは反対なのね。ハークはけっこう乗り気よ。もしかするとナイト様は王都にいるのかもって」

「疑うことを知らない善良なハーク殿のことです。彼が行きたがっているのであれば、勝手に行かせればいいでしょう。フィル博士たちにも懐いているようですから」

 ロゼは、ここまできてようやくアルフレッドの意図を汲み取り、くすくすと笑った。何と人間的な理由なのだろうかと。

 アルフレッドは困惑する。

「何かおかしなことでも」

 ロゼは目じりの涙をぬぐいながら、ようやく姿勢を正した。アルフレッドにとっては不可解なことこの上なかった。

「あなたはとにかく身軽になりたいのね。他人と関わるのが億劫なのよ」

「いえ」

 アルフレッドは、明らかにむっとしていた。

「ただ、ロゼの身を案じているだけです」

「大丈夫よ」

 ロゼはアルフレッドに向き合った。

「自分とは違う種類の人たちと行動をともにしているおかげで、少しずつわかってきたわ」

「それは、神獣のことですか。それともナイト様のことがですか」

「いいえ。私自身のことが、ね」

 ロゼの言葉に、アルフレッドは首を傾げた。しかし、彼女のどこか清々しげな微笑みを目にすると、利口な彼はそれ以上訊ねなかった。

「いつも皆のことを守ってくれてありがとう。無理させて悪いわね」

「その点に関してはお気になさらず。無理をしているつもりはありませんよ」


 王都に近づくにつれて、ときおり見る夢。過去の何かを思い出す鍵になるという直感はあった。

 この獣使いの里ではじめて目覚めたときの夢は、これまでより鮮明だと感じたのだから。この調子で現実に起こる新たな出来事が、眠っている感覚を呼び覚ましていけばいいと思っていた。


「ああ、噂をすれば。今日も善良なハークが稽古に励んでいるわよ」

 ロゼは、人だかりのできた広場を望んだ。

「威勢のいい声で、すぐに彼とわかりますね」

 歩を進めると、木の剣を交える乾いた音とそのたびに沸き上がる歓声が近づいた。


 ロゼがめいっぱい背伸びして、村人の肩越しに様子を眺めるとハークと対峙しているのはケイトだった。

「あら、意外な取り合わせ」

「あ!さっきの聖獣をつれたおんなのひと!」

 自分のことかと声の方へ目をやると、隣にいた少年が目を輝かせていた。どうもこの里育ちの人間は

、人懐こい性格の者が多いようだった。

これから何が始まるのかと問えば、興奮ぎみに身ぶり手振りで、それまでの稽古の様子を語り出した。

 ハークはやはり村の青年たちよりは腕が立ったらしい。青年たちに乞われ、剣の振り方を教えていたが、そのやり方にケイトが口を挟んだようだ。そして、今の状況に至るという。

「とにかく、ふたりともすごく強そうなんだよ。どっちが勝つのかみんな気になってるんだ」

「そう。じゃ、一緒に見てみましょうか」

 ロゼとアルフレッドは子供たちと並んで、見物することにした。


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