8.行き先不明
そんな想像は一日も持たずして崩れ去った。姉貴が終電で帰宅したのである。わかめ頭なのはさっきとちっとも変わらないが、顔は真っ青だった。
姉貴は家族の誰とも口を聞かず、そのまま自分の部屋に閉じこもった。母さんたちがあまりにも騒ぐものだから、俺がまた様子を見に行くことになった。
「姉貴」
無言。更に二回ノックして、呼びかける。応答なし。
今日の騒動のこともあり、俺は心配になった。あの後研究所で何かあったのだろうか。
姉貴には悪いが、部屋のドアを一気に開けた。部屋は真っ暗なのに、デスクの上の蛍光灯だけこうこうと光っていた。姉貴はそこで何をするでもなく、頬杖をついてぼーっとしていた。
「母さんたちに挨拶くらいしろよ。心配してたぞ」
しばらくの沈黙の後、姉貴はそのままの体勢で口を開いた。
「桜以外のアンドロイドが逃げ出したのよ」
その一言は、俺の頭を鈍器で殴るよりも強く響いた。
「ど……、どういうこと?」
姉貴の話は単純だった。気がついたら、研究室の扉は開放されていて、棺桶で寝ていた桜以外の四体がいなくなっていたらしい。
「桃か!」
すぐ俺は気づいた。あの腹黒いショタ型アンドロイドは、俺を罠にはめたってことか。
「でも、外になんて簡単に出られないでしょ? 警備員さんだっていたのに」
「それがどうやら研究室と同じ階で火災騒ぎがあったらしくて……」
騒ぎに便乗して逃げたのか。やり方まで汚い。
「あいつら……私を置いて、どうして逃げたのかしら。桃たちならともかく、あの檜まで」
悔しそうな姉貴の言葉も気になったが、俺はそれよりもっと大事なことを聞いた。
「そういえば、桜は? また動かせるの?」
「コードをさせば動くわよ。ただ、今回相当な電力を使っちゃってね。会社からクレームが来たのよ。だからしばらく改良するまでは起動させないわ。ま、すぐできると思うけどね」
「動く」と聞いて、俺は安心した。だけど、桜が起きたら現状をどう思うだろう。他の仲間は自分をおいていなくなってしまった。俺だったら悔しいとか、裏切られたと思う。だけど、あの無表情なアンドロイドはどう思うだろう。
「全く、警察にも相談できないし……。あいつらが勝手に戻ってくることを祈るしかないわね」




