6.檜
「BDC―5 檜」は、三十代のチョイ悪オヤジをイメージして造ったらしい。このアンドロイドたちの中で、一番大人だというところがポイントだ。1号機である桜はいまいちリーダーシップに欠ける。かといって、今のところ設定年齢が一番上の椿は問題外。桃は腹黒いし、蓮は暑苦しい。
「その点檜は大人の色気ムンムンで、物腰柔らか。リーダーとして向いていると思うの」
「でもそれは単なる『設定』でしょ? どうせ中には違うものが入ってるんでしょ?」
研究室は現在、四体のアンドロイドが自由に好きなことをやっている。言うなれば、アンドロイドのサファリパークだ。桜は自分の服が決まらないらしく、尻から出ているコードを引きずりながらまだガラスの前をうろうろしているし、桃はアイドルになる練習とかいって、どっから出てきたのかカラオケマシーンを使って歌いだした。椿が変な魔法陣を引き始めている横で、蓮はシュッシュッと呼吸をしながら腹筋をしている。これはハーレムというより、ただの変人集会でしかない。
ここで新たな変人アンドロイドが出てくるのか。そう思うと気が重い。
「とりあえず手伝いなさい。文句はあとで聞くわ」
俺と姉貴は、一緒に最後の棺桶を開けた。黒いジャケットにお洒落な帽子。無精ひげを生やした檜がいる。見た感じでは、普通のカッコいい大人だ。姉貴が目を突くと、すんなりと起動した。
「君が私の製作者かい?」
しばらくして、渋く甘いボイスが俺と姉貴の耳に響いた。他のアンドロイドも最後の仲間の目覚めに気がついたらしく、そばに寄ってきた。
「これは……成功よね? ね?」
「ああ……多分」
姉貴はとうとう涙目になって、檜の手を取った。
「私があなたの製作者、真実よ。宜しくね」
そう言った瞬間だった。
「ママ~! 暗くて恐かったよぉ~!」
渋くてダンディな三十代が、わかめ頭の十代の女マッドサイエンティストにすがりついて泣いている。俺はショックで気を失いそうになった。この光景を見た他のアンドロイドも反応を示し始めた。
「このおっさん、博士のことママとかいってやんの! 僕より年上の癖に!」
「桃……そういうのはよくない」
桃がはやしたてると桜が抑える。それはいい。問題は他の二体だ。
「やはりこれは神が僕らに与えた罰! おお、この残忍な人間を地獄へ落としたまえ!」
「ママ、なんて言ってるのは、精神鍛錬が足りないんだよ! さあ、オレと一緒にトレーニングしようぜ!」
姉貴、正直俺はもう帰りたい。現実世界へ。こんなSFチックなアンドロイドなんていない場所へ。そもそも姉貴はこんなやつらを五体も造って何がしたかったんだっけ。当初の計画すらグダグダなのに、この状況をどうするつもりなんだ? 俺は姉貴の目に訴えようとしたが、すでに白目をむいていた。




