5.蓮
「もう帰っていい?」
三体でこんなに疲れるとは思わなかった。姉貴の造ったアンドロイドで、結局まともなのは桜だけだ。その桜も椿の出現で、ガラスの前から動かなくなったわけですが。
黒い服に文句を言われたせいで、買い置きされていたアンドロイド用の服を全部ひっぱりだしてきて、一人ファッションショーをしている。相変わらず、尻にコードは刺さったままだ。
もう嫌だ、こんな空間。
最初は電源を落としてしまえばいいんじゃないか、と思ったのだが、どうやらコードをつけている桜以外は自立式になってしまっているため、エネルギーが切れるまでそのままらしい。
しかも、その稼動年数は五十年という異常な数値だ。そんな年数待っていたら、こっちの方が先にポックリ逝ってしまいそうだ。
こっそりと出口に向おうとした瞬間、 姉貴が俺の腕を引っ張った。その姿はまさに幽霊だ。
「あと二体だけなんだから、最後まで我慢してよ!」
もう我慢って言ってる時点で、自分ひとりじゃ制御できないと感づいているのか。しょうがない。このままこのアンドロイドたちが暴走して、研究室から脱走されたらめんどうなことになる。ここまできたら、最後まで付き合うしかない。
「次の『BDC―4 蓮』って、どんなやつなの?」
桃が姉貴に聞いた。
「スポーツマンタイプよ。爽やか好青年……のはず」
すでに自信喪失か。それも無理はない。
一人ファッションショーから戻ってきた桜が、蓮の棺桶を開ける。そこには桜と同い年くらいで、Tシャツ、ジーパンで短髪の、少し日焼けした青年が横たわっていた。
「おお、またも人間の作り出した哀れな傀儡が!」
「ちょっとお前は黙っとけ」
うるさい椿の口をふさぎ、蓮を起動させる。今度は一発で起動に成功したようだ。またしばらく蓮が目を開けるのを待つ。
「あー、よく寝たっ!」
蓮は勢いよく飛び起きた。今回のアンドロイドはどうやらまともなようだ。
「やった! まともな爽やか好青年!」
姉貴も喜んでいる。
しかし蓮は棺桶から出ると、いきなり腕立て伏せを始めた。
「蓮、何してるの?」
俺が聞くと、蓮はシュッシュッと息を吐きながら、答えた。
「その箱に入ってたから、体の機能がよく動いていないんじゃないかと思ってね。チェックもかねた準備運動さっ!」
なんだかちょっと古い世代の好青年な気がする上に、妙に暑苦しい感じがするのは俺だけじゃないようだ。姉貴はすでに廃人のようになっているし、他の三体のアンドロイドもちょっと引いている。
「そこの少年! オレの上に乗るといいよっ!」
「え! 僕?」
いきなり指名された桃が驚いて蓮を見つめる。腕立て伏せしている蓮の上に乗れって、どれだけ鍛える気だ。
桃は蓮の強い眼力に負け、俺たちに何か言いたそうな顔をしながら渋々とその上に乗った。
小一時間、蓮は腕立て伏せを続けた。その間、全員黙って見ないようにしていた。体を鍛えること自体は悪いことじゃないんだけど、蓮の場合、異様な迫力がある。巻き込まれた桃だけが、「お前ら、覚えとけよ!」と叫びながら、むなしく助けを待っていた。
「うらぁぁぁ!」
やっと腕立て伏せが終わったと思ったら、椿はいきなりTシャツを破った。そして、一人ファッションショーをしていた桜の横に立って、自分の細マッチョな肉体をうっとり見始めたのである。突然ガラスに映った蓮に桜は驚いたらしく、少し後ろへ引いた。
「あ、姉貴、あれは一番ひどいんじゃない? 椿も恐いけど、蓮も相当恐いよ?」
「そうね、正直私も恐いわ。あれはハーレムには絶対いらない要素よ」
真剣な顔でつぶやく姉貴。だったらこういうのを最初っから造らないでくれと言いたい。桃はさっきから俺の背後にいる。蓮に小一時間も腕立て伏せに付き合わされて、へとへとのようだ。
「あれはきっと呪いだ! 人間が僕らを造るという行為が、神の怒りをかったんだ!」
椿の電波話も本当じゃないかと思えてしまうからすごい。
「もう、これじゃハーレムにならないわね。優秀な指導者が必要だわ」
廃人と化した姉貴が最後のパンドラの箱を開けるときがきた。




