4.椿
今まで二体のアンドロイドを起動させたが、もう俺は精神的にいっぱいいっぱいだった。桜はナルシストらしくちょくちょくガラスに映った自分を見てポーズを取っているけど、それ以外はわりと普通だ。だけど、桃の方は腹黒い。この研究所を出たら、アンドロイド系アイドルとして芸能界デビューしたいとかほざいている。姉貴はそのための資金源にされるそうだ。ハーレムどころじゃないぞ、これは。
「あー、もうろくなのがいないわね」
姉貴が愚痴った。けれど、造った本人がそれを言うか? つっこむ暇なく、三体目の起動に取りかかった。
三体目は「BDC―3 椿」。二十代半ばくらいだろうか。ホストっぽい感じで、夜の街を一緒に歩くのに適していそうだ。ゆるめのこげ茶の髪に高級そうなスーツで決めている。
「ん?」
目潰ししてもなかなか起動しない。
「えい、えい!」
「ちょっと、もうやめてぇ!」
俺はつい叫んでしまった。何回も目玉をグリグリされているのを見ると、こっちの方が痛くなってくる。桜はそれでも無表情だし、桃はそんな俺の様子を鼻で笑った。
しばらくすると、ゆっくりとまぶたが開いてきた。が、半目の状態で止まったままだ。
「あら? おかしいわね。起動してはいるみたいなんだけど」
確かにこの状態はおかしい。マッドサイエンティストの姉に造られた、ナルシストと腹黒アンドロイドに囲まれ、半目のホスト系アンドロイドの目覚めを待つ。……俺、本当に何してるんだろう。ここは現代の日本だよな? 異世界じゃないよな? 今眼前に広がっている光景は、普通の中学生が見るものじゃない、絶対。だけど、それに適応している自分にも驚く。まぁ、姉貴が天才に生まれてきたこと自体がおかしかったんだ。そうに違いない。
そんなことを考えていたら、突然半目だった椿が身を起こした。
「おお、神よ!」
「な、何?」
一番椿の近くにいた姉貴が、驚きで飛びはねた。いきなりの椿の叫びに、場が静まり返る。
「髪? 抜け毛か?」
桃が椿の後頭部を触る。しばらく髪をいじっていたが、特に何の発見もなかったらしく、つまらなさそうにその場を離れた。すると、また椿が突然叫んだ。
「神のお告げがきた!」
「これ、ホスト系?」
「そうプログラミングしたんだけど」
ホスト系というより、バリバリの電波系じゃないか。皆が椿の一挙手一投足に注目した。なんかよくわからない迫力というか、恐さがある。桜はそれでも無表情だからある意味すごいと思う。桃はというと、虚勢ははっているが、若干びびったようだ。
椿は両手をあげて神のお告げとやらを始めた。
「僕らの着ている服は……大手量販店で買われたものだと神が告げている!」
あ、電波系って言っても、その程度のことなのか。そんなことを予言する程、神様も暇じゃないだろう。それ以前に、アンドロイドが電波系ってどういうことだよ。つっこみたいことが山ほど出てきた。でも、これだけは確実に言える。このアンドロイドもめんどくさいヤツだ。
「ちょっと博士とやら! 本当に僕らの服は量販店のなの?」
桃はどうでもいいことで姉貴に飛びついている。姉貴は遠い目をして椿のデータをノートにメモしていた。
「僕は何故この世に生まれてきたのだろうか……。こんな窮屈な器に入れられて……! 嗚呼、神はなんで僕をお捨てになられたのか!」
錯乱している椿に、今まで無反応だった桜が近づいていって、諭した。
「……椿は、少し落ち着いたほうがいいと思う」
こんなカオス状態の中だと、アンドロイドだということを忘れて、一番桜がまともな人間に見えるからすごい。しかし、そんな桜の言葉を椿は跳ね除けた。
「黙れ、悪魔の手先めが!」
一瞬、桜の表情が曇った。それも無理はない。同じアンドロイドに拒絶されたのだから。そもそも桜たち三体のアンドロイドは、起動したばかりなのだ。いくら見かけは普通の男だとしても、心は生まれて間もない赤ん坊と同じだといえる。だからこんなカオス状態になっているのだろう。だが、このままだと桜が少し不憫だ。ここは軽くフォローしてあげよう。椿は恐いけど。
「椿、桜は悪魔なんかじゃないぞ。お前と一緒のアンドロイドだ」
「黙れ! こんなカラスのような黒衣をまとうなど、悪魔の証拠! ええい、地獄へ送り返す魔法陣を書いてやる!」
桜はまた最初と同じ無表情に戻った。なんだ。服のことだったのか。要するに椿は服にこだわり有り、と。




