3.桃
「さて、桜の機械的な問題点は燃費が悪いことぐらいね」
姉貴は研究ノートに走り書きをした。
「『機械的』以外の問題点ってなにさ」
俺と桜は、姉貴がデータをまとめている間、ババ抜きをしていた。桜は無口だが、素直でいいやつだ。ババ抜きもルールを教えるとすぐに覚えたし、人間と全く変わらないといってもいいと思う。
「あとは性格ね。従順性といったところかしら。やっぱりハーレムを作るためには私が優先順位第一位にこないと」
それ以前に、姉貴の男子免疫力をつけた方がいいんじゃないか? 桜と目が合っただけで大騒動だったのに、それがあと四体あるわけなんだから。そう言いたいのをガマンして、俺は紅茶と言われるお湯を飲んだ。姉貴は早速実験を開始するようだ。
「桜くん、一番美しいのはだあれ?」
「……自分」
ガラスで反射した自分の姿を確認した桜が、そう答えた。
「あら、頭部が故障しているのかしら?」
いや、今の姉貴の格好と桜を比べると、断然桜の方が美形だと思う。俺はともかくとして。
姉貴は頭部をいじくりまわしているが、やはり異常はなかったようだ。
「もうこいつはナルシストな訳? ま、いいわ。次のアンドロイドを起動させましょう。桜、手伝って」
自分を優先順位一位にしない桜に対して、「ただの機械」と判断したらしい。さっきまでどぎまぎしていたくせに、姉貴は躊躇なく命令した。桜は姉貴に言われる通り、「BDC―2 桃」と書かれた棺桶を開けた。今度はショタキャラか。姉貴の趣味がよくわかる。はねた茶髪で、ラグラン、膝丈のチェックのパンツを身につけている俺と同い年かちょっと年下くらいの少年だ。
「よし、行くわよ!」
勢いよく目潰し。躊躇しないのだろうか、この女は。
しばらくすると、「桃」はパチッと目を開いた。
「痛ぇじゃねぇか! クソババア!」
「な、なんですって?」
桃は桜と違って、燃費がよいらしく、ひょいっと棺桶から抜け出すと、姉貴の白衣を掴んだ。
「アンタのことだよ! こんな汚い白衣着ちゃってさ。誰だよ、ブス!」
「博士だよ」
桜が無表情で答える。ブスと言われてショックを受けている姉貴の白衣を掴み、睨みをきかせていたが、ゆっくりと手を離した。
「おかしいな。僕のデータでは、『一番美しい人が博士』ってあるんだけど。この中で一番美しいのって……」
俺たち三人をじっと見つめる桃。そして最終的にその視線は桜に注がれた。
「そこの黒い兄ちゃんが一番美形だな! あれが博士だ!」
「えっ! ちょ、ちょっと!」
姉貴が焦っている。桜はというと、相変わらずの無表情で何を考えているのかわからない。
「桃……博士はアレだ。認めたくなくてもアレなんだ」
とうとう自分が造ったアンドロイドたちから『アレ』扱いされてしまった。さすがにここまでくると姉貴にはちょっと同情する。
「仕方ないな。兄ちゃんがそう言うなら僕、信じるよ」
あれ。異様に桜には懐くんだな。やっぱりアンドロイド同士だと気心が通じるところがあるのだろうか。桃にもかわいいところがあるじゃないか。そう思った瞬間、ボソッと低い声が聞こえた。
「まぁ、一番上にこびてるフリしとけば問題ねぇだろ」
俺がその声に振り向くと、そこには桃がいた。桃は目覚めたときよりも悪い顔で俺を睨んだ。こいつ、性格に難有りだ。




