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異世界人、高校生に  作者: 小説書こう


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10/10

琥珀

周囲にクラスメイトが集まり始め、朝のホームルームのチャイムが鳴り響く。俺たちの会話はそこで一度途切れたが、机の下でヴェルがそっと引いた袖の余韻が、授業中もずっと俺の左腕に残っていた。

午前中の授業は淡々と進んでいく。いつもなら退屈でたまらない時間が、不思議と苦にならなかった。それは隣の席で、ヴェルが相変わらず熱心に黒板の文字をノートに書き留めている姿が視界に入っていたからだろう。

そして、お昼休みを告げるチャイムが鳴った。

「鋭二、今日のお弁当は中庭で食べないかい? 風の精霊たちが――」

ヴェルが嬉しそうに振り返りかけた、その時だった。

「よお、狛枝。随分と新しい『玩具』がお気に入りのようだな」

教室の後ろのドアから、低く、どこか人を小馬鹿にしたような声が響いた。

声の主は、隣のクラスの御子柴みこしば れん。整った顔立ちに、わざと着崩した制服。鋭二と同じように周囲から少し浮いているが、鋭二が「悪ガキのいたずら」なら、御子柴は「他人の心を巧みに操って楽しむ」ような、質の悪いタイプの男だった。中学時代から何かと俺に突っかかってくる、腐れ縁というか、ぶっちゃけ一番苦手なやつだ。

「……御子柴。何の用だよ」

俺は声を一段低くして、ヴェルの前にさりげなく立つように位置を変えた。

御子柴は琥珀色の目を細め、俺を押しのけるようにしてヴェルを値踏みするように見つめた。

「いやさ、ドッジボールで大暴れした『異世界人』の噂を聞いてな。どんな面白い奴かと思えば……なるほど、確かにお前好みの、騙し甲斐のありそうなピュアな顔をしてるなって」

「おい、言葉を慎めよ」

俺の胸の奥で、どす黒いイラ立ちがふつふつと湧き上がる。こいつはいつもそうだ。人が大切にしているものや、面白がっているものに土足で踏み込んでくる。

「怒るなよ。お前が他人にそこまで執着するなんて珍しいからさ。なぁ、転校生」

御子柴は鋭二を無視して、ヴェルにひらひらと手を振った。

「俺は御子柴蓮。狛枝とは中学からの付き合いだ。あいつ、昔からタチの悪いいたずらばっかりして周囲に嫌われてただろ? そんな奴の言うこと真に受けてたら、いつか痛い目見るぞ」

ヴェルの瞳が、少しだけ曇ったように見えた。御子柴の言葉が悪意に満ちていることは、この世界の常識に疎いヴェルでも察したのだろう。

俺は拳を強く握りしめ、御子柴の胸ぐらを掴みそうになった。――が、それよりも早く、ヴェルが凛とした声で言葉を返した。

「御子柴くん、だね。教えてくれてありがとう」

ヴェルはまっすぐに御子柴を見据えた。

「でも、鋭二が昔どうだったかは、僕には関係ないよ。僕が知っている鋭二は、僕にこの世界の温かさを教えてくれた、誰よりも優しくて特別な人だ。だから、君が何を言っても、僕の鋭二への信頼は変わらない」

「……っ」

俺は息を呑んだ。まさかヴェルが、ここまで毅然とした態度で俺を庇ってくれるなんて思わなかった。

御子柴は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにククッと喉を鳴らして笑った。

「へえ……面白い。ただの設定入った変人かと思えば、随分と骨があるじゃないか」

御子柴は一歩下がり、俺とヴェルを交互に見つめながら、不敵な笑みを浮かべた。

「狛枝。お前がその『おもちゃ』をいつまで大事に囲っていられるか、見ものだな。じゃあな、転校生。また遊ぼうぜ」

それだけ言い残し、御子柴はひらひらと手を振りながら教室を出て行った。

嵐のような時間が去り、教室には気まずい沈黙が残る。俺は深くため息をつき、肩の力を抜いた。

「……わりぃ、ヴェル。変な奴に絡ませちまって」

「ううん、僕は平気だよ。それより、鋭二……」

ヴェルは心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

「僕の言葉、おこがましかったかな? 鋭二の邪魔をしたくなかったんだけど……」

「バカ、何言ってんだよ」

俺はそっぽを向いて、赤くなった耳を隠すように首を振った。

「めちゃくちゃ嬉しかったよ。あいつに言い返してくれて、スカッとしたわ」

「本当!? よかった……!」

ヴェルはホッとしたように、いつものひまわりが咲いたような笑顔に戻った。

御子柴の登場で少し冷や汗をかいたが、あいつの悪意のおかげで、皮肉にもヴェルの俺に対する気持ちの強さを再確認することになってしまった。胸の奥が、熱い何かで満たされていくのが分かる。

「よし、気を取り直して飯にするぞ。放課後の『お気に入りの場所』に行くためにも、午後の授業を乗り切らねえとな」

「うん! 鋭二先生、午後も頑張るよ!」

御子柴が残していった不穏な気配を振り払うように、俺たちは笑顔を交わした。あいつがどんな罠を仕掛けてこようが関係ない。俺がこの赤髪の迷子を、全力で守り抜いてやる!

ここまでお読みいただきありがとうございました!

今回は鋭二のライバル(?)である御子柴蓮が登場し、二人の日常に少しだけ波乱の予感を落としていきました。

しかし、そんな御子柴の揺さぶりにも全く動じず、鋭二への絶対的な信頼を口にしたヴェルの格好良さと健気さが光る回となりました。鋭二の「守ってやる」という決意もさらに強くなったようです。

次回はついに、鋭二の「お気に入りの場所」へ! 二人のデート(?)回をどうぞお楽しみに!

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