転校生に日常を翻弄されはじめました
なんの変哲もない月曜日、俺は今日も高校へ向かう。
自分がやったことではある俺はが少し教室で浮いている。何をしたらそんなことなってしまったか。
例えば、自分の演技で同級生に自分の意思で静電気を起こせると信じ込ませてタイミングを見てバラし、厨二病だとバカにしたり、スキー場のゴンドラに同級生と乗っている時にゴンドラをわざと揺らしたりなど確かに嫌われることをしている。だが後悔していると言ったら嘘になる。だって楽しいんだもん。
朝のホームルーム前、教室はいつものようにざわついていた。俺は窓際の席で頰杖をつきながら、今日も何か面白い「ネタ」を探していた。
「みんな、席について。今日は転校生を紹介するわよ」
担任の声が響くと、ドアが開き、先生の後ろから一人の生徒が入ってきた。
赤い髪に、整いすぎた顔立ち。制服を着ていてもどこか浮世離れした雰囲気がある。クラスが一気に沸いた。
「外国人!?」「マジでイケメン……」「髪の色、染めてるの?」
担任が微笑みながら紹介する。
「こちら、ヴェル・ヴァルハードくん。遠いところから転校してきたの。みんな仲良くしてあげてね」
ヴェルは穏やかに頭を下げ、はっきりした声で言った。
「よろしくお願いします。ヴェル・ヴァルハードです。実は異世界から召喚されてきました」
先生も生徒もギョッとして一瞬静まり、大爆笑が起きた。
「はははっ! いきなりそれ!?」「厨二病全開じゃん!」「アニメの影響強すぎだろ」
俺は内心でニヤリとした。
(おっ、面白い奴が入ってきたな。完全に設定入ってるタイプだな……これは遊べる)
休み時間になると、俺はすぐにヴェルの席に近づいた。まずは定番から。
「よお、ヴェル。俺は狛枝鋭二。よろしくな。ほら、手貸せよ」
事前に静電気を溜め込んで握手をしかける。バチッとやって驚かせてやるつもりだった。
ヴェルは素直に手を差し出してきた。予想通り小さな放電が起きた瞬間、ヴェルは目を丸くして、
「わっ……この世界では『静電気』って言うんだよね。うちの世界では魔力の逆流でよく起きるやつだよ。面白いよね」
と、にこやかに返してきた。
周りの奴らが「何が起きた?」とざわつく中、俺は笑顔を保ったまま内心で舌打ちした。
(なるほど、設定に合わせて返してくるタイプか。なかなかやるな)
次に俺は、ヴェルの後ろに消しゴムを落として拾う瞬間に驚かせる作戦に出た。
ヴェルは振り返らずに手を軽く振って、消しゴムをふわりと浮かせて自分の手に乗せた。
「落ちてたよ」
クラスメイトが「マジックだ!」「どうやったんだよ!」と盛り上がる。
「……風の精霊に頼んだだけなんだけど、この世界では手品に見えるのかな?」
俺はますますニヤニヤが止まらなくなってきた。
(全部「異世界設定」で返すつもりか。徹底してるな、こいつ)
完全に俺はノリノリだ。こっちのイタズラを全部「異世界あるある」で受け止めてくる。
放課後、廊下でヴェルを捕まえた。
「おいヴェル。本気で異世界とか言ってるのか? 設定楽しんでるだけだろ?」
ヴェルは赤髪を指でくるくる巻きながら、首を傾げた。
「本当だよ? 召喚されて、せんせいに紹介されて、この世界の高校に通うことになったんだ。まだ常識を勉強中だから、教えてくれると嬉しいな」
その言葉にドキリとし、俺は頬を赤らめ言葉に詰まる。その目が嘘をついているようには見えない。
……いや、まさか本当に?
俺は一瞬だけ本気で考えたが、すぐに頭を振った。
(いやいや、流石にないだろ。せいぜい海外の変な宗教か、超本気のロールプレイだ)
俺は笑いながらヴェルの肩を叩いた。
「ははっ、わかった。じゃあ今日から俺がお前の『この世界の常識』先生になってやるよ。面白いイタズラも、たくさん教えてやる」
ヴェルが目を輝かせた。
「本当? ありがとう、狛枝!いたずらってどんなの?」
……こいつ、天然か演技か分からないけど、間違いなく退屈しのぎには最高の玩具になりそうだ。
こうして、俺の日常に予測不能の赤髪転校生が加わった。 こいつの設定がどこまで本気なのか、俺は絶対に確かめてやるつもりだった。
「なあ、ヴェル」
「なに?狛枝」
「鋭二でいいって」
「わかった。鋭二!それでどうしたの?」
「よければ、俺の家でスキッチして行かないか?」
「スキッチ?ぜひ教えて欲しいな」
……その日の放課後、俺はまさか本当に自分の部屋にヴェルを連れ込むことになるとは思っていなかった。
ゲーム機のコントローラーを握るヴェルの横顔を、つい目で追ってしまう。赤い髪が少し肩にかかって、制服のシャツの第一ボタンが外れているせいで、白い鎖骨がチラチラ見える。
(……やべ、なんか意識してる)
ヴェルがこちらを向いて、にこっと笑った。距離が近い。息がかかりそうな距離。
「鋭二の部屋、落ち着くね。この世界の匂いがする……」
「匂いって……お前、変なこと言うなよ」
俺が軽く肩を突くと、ヴェルはくすぐったそうに身をよじって笑った。その拍子に、細い指が俺の手に触れる。冷たくて、柔らかい。
一瞬、時間が止まった気がした。
「この世界では、こうやって触れ合うのもスキンシップなんだよね?」
ヴェルの瞳が、じっと俺を見つめてくる。純粋なのに、どこか甘い。
俺は慌てて目を逸らした。
「……まあ、程度によるけどな」
心臓が少し速くなってるのが、自分でもわかった。
こいつ、本当に異世界から来たのか?
それとも、ただの天才的な天然か。
どちらにしても——
この赤髪の転校生は、俺の退屈な日常を、予想以上に色づかせ始めていた。
こうして、俺とヴェルの、ちょっとだけ特別な関係が始まったのだった。




