55.久しぶりの王都 ⑨
7/29 三話目
オタリー様とお会いしてお話した後、その件については陛下に報告した。あの場には王宮に仕える侍女達の姿もあって、彼女達からの報告も受けているだろうけれど念のため私の方からもお伝えしたのだ。
陛下は悲しそうな表情をしていた。しばらくの間、オタリー様はやっぱり療養になるらしい。
私の言った言葉を理解し、それでいて陛下達の言葉を聞くようになるまでは……と話されていた。
私がオタリー様の立場を狙ったりなどしていないということを、理解してくれたらいい。
そしたらオタリー様だって王妃として真っ当に働くようになるはず。……そうならないまま過去にとらわれているのならば、療養は終わらないのだろうな。
とはいえ、陛下はオタリー様を見捨てる気などはないようだった。
ついでにその報告の際に、国内の貴族だけの参加するパーティーがあるということで誘われた。
家族や昔の友人達も沢山参加するからって。
……正直、今の私が貴族が沢山参加するパーティーに赴くのってどうなんだろう? とは少しは思いはした。
けれどもこの機会を逃したらもうパーティーに参加する機会なんてもうないだろうなと思うから参加することにした。
それに私は着飾ったリグシャンのことも見てみたかった。
「俺がパーティーに参加か……」
「緊張している?」
パーティーに参加する直前、緊張している様子のリグシャンを見ていると思わずくすくすと笑ってしまう。
だって身体は私よりも大きくて、たくましいのにこういうところは可愛らしいのだもの。
私だってパーティーに参加することは久しぶりだわ。引きこもっていた頃も、その後もしばらくは昔の知り合いに会うことが少しだけ怖いなって思ってしまったりしていた。
でも今の私は、凄くすっきりした気持ちで昔の無敵感が戻ってきている。私は誰に会ったとしても怖くはないし、寧ろ私の大切な人のことを紹介出来ることも嬉しくて仕方がない。
現在の私自身のことをとても誇らしく思っている。
だから私はとても楽しみで仕方ない。寧ろリグシャンの新たな一面を沢山見れるんだろうなってそのことににこにこしてしまう。
「緊張はしている。パーティーなどは出たことないから」
「大丈夫よ。私がリグシャンのことは守るもの」
「いや、守られっぱなしも情けなくないか?」
「ううん。全然。寧ろ私は嬉しいわ。だって魔物討伐などに行く際は、リグシャンが私を守ってくれているでしょ。戦場が違えば役割も変わるでしょ。だから慣れている私がリグシャンが嫌な思いをしないように守るの。代わりに戦いの場では、リグシャンが私を守ってくれたらいいわ」
戦闘の場と、社交界の場では全く異なる。
だからこの場では、私側が騎士とかそう言う感じかしら。
「だから、リグシャン、甘えていいのよ? 私がエスコートしてあげるから」
「……まぁ、そうか。慣れていない俺だとマルちゃんに迷惑をかけるかもしれないし、お言葉に甘えることにする」
リグシャンは男の子だし、彼女に甘えっぱなしというのはちょっと面白くないとかはあると思う。
でもそう言って頷いてくれたから、私は嬉しくなった。うん、いっぱい甘やかしたい。
私は長い間、社交界から離れていたとはいえ貴族達の世界を知っている。だから私が先導する。
こうして恋人をエスコートしてパーティーに出られるなんて嬉しいことよね。
「ええ。そうしてちょうだい。パーティーで私の自慢の恋人を紹介出来ることも楽しみなのよ。どうせ、今後パーティーに参加する機会なんて中々ないのだからあなたも楽しんで。それで街に帰った時に良い思い出だったって皆に報告しましょ? 王都で手に入るお菓子なんかも沢山買って、皆と話したら凄く楽しいのだもの」
にこにこしながら私がそう言ったらリグシャンは頷いた。
私達の居場所は、王都じゃない。王宮は私とリグシャンが暮らす場所ではない。リグシャンが王都にやってきて態度が変わらなくて良かったなとも思う。
欲に目がくらんで、王都で出世したいとかそういう感情に彼が向いてしまったら私は別れを選択していたかもしれない。それに私の実家を当てにしたりすることもなく、自然体で私に接してくれている。そう言う人だから、私はずっと一緒に居たいなと思っているのだ。
「ねぇ、リグシャン。街に戻ったら結婚しましょう」
「え」
急に私が結婚を申し出てきたから、リグシャンは驚いた顔をしていた。私は誰かと付き合うことも、凄く悩んでいたぐらいだった。結婚することは考えていないってリグシャンにも告げていた。
――なのに、今の私は結婚したいなと思ってしまっている。
「つい最近まで結婚なんて考えていないと言っていたけれど、こうして久しぶりに王都にやってきてみて……昔の知り合いとかに会ったりしてみて思ったの。私は恋人としてじゃなくて、リグシャンのことを夫として紹介してみたいなって」
突然こんなことを言われてもリグシャンは迷惑かもしれない。それでも私は結婚したいなって思ってしまったのだ。
「……私の年だと子供は難しいかもしれないし、私の方が年上だから先に寿命を迎えると思う」
獣人の方が基本的には寿命が長い。だからその可能性の方が高いだろう。私の方が先に老いて逝く。
それでも結婚したいなんていうのは私の我儘なのかもしれない。
それでも私はリグシャンと結婚したいと思ってしまったから。
「だけど、私はあなたと結婚して奥さんになりたいと思ったの。駄目かしら?」
私は恐る恐る問いかけた。少しだけ心配だった。リグシャンから断られたら嫌だなって。
だけれども顔を挙げた先でリグシャンは笑っていた。
「駄目なわけじゃないだろう。俺だってマルちゃんと結婚したい」
そう言われて私は嬉しくなって笑った。
パーティーの間、リグシャンが結婚を承諾してくれたことが嬉しくてずっとご機嫌な様子を見せてしまった。
お兄様達に「リグシャンと結婚することにしたの。承諾してもらえた」と報告したらお祝いの言葉を口にしてくれた。
……昔の友人達にも自慢するように言いまくっていたら、ほほえましいものを見るような目で見られてめちゃくちゃ恥ずかしかった。
なんにせよ、パーティーは特に問題なく終わって私たちはすぐに普段暮らしている街へと戻るのであった。




