54.久しぶりの王都 ⑧
7/29 二話目
オタリー様にとって、私は当時のままなのかもしれない。人というのは、いつまでも同じままというわけではない。もちろん、芯の部分は変わらないだろうし、そのままな人もいるだろう。
だけれども環境が変われば、いき方も変わっていく。
私は引きこもっていた間に、自尊心とか、未来への希望とか全てぽっきりと折れていた。
それまでの私は自分のことが凄く好きだったのに、引きこもっているうちに自分のことが嫌いになってしまった。
そしてどうしたらいいか分からなくて、私は長い間、どうしたらいいか分からなくてくすぶっていた。
そして今は平民達に混ざって暮らしていて、全く違う日々を過ごしている。王妃になろうなんて今は考えていない。
「オタリー様、周りがどうのこうの言ったとしても王妃なのはあなたですわ。私の教えた人物が王宮魔法師になったのは事実ですけれども、だからといって私はオタリー様の脅威になることはございません。オタリー様は信じてくださらないかもしれませんが」
私は王妃になることも、王宮に舞い戻ることも考えていない。だからそのことを伝える。
オタリー様は、睨むように私を見ていた。
「そのような嘘で陛下を騙したのかしら? あの方の妻の座に執着していたあなたが簡単にあきらめるなんて思えないわ。それに王妃の座を狙っていないというのならばどうしてあなたの弟子が王宮魔法師になるのよ? それにのこのこと王宮までやってきて、私のことを嘲笑いに来たのでしょう?」
確かに昔の私は、陛下の妻になることや王妃になることに執着をしてしまっていたと思う。
幼い頃から当たり前のように王妃になるのだと思い込んでいた。陛下の心がオタリー様に傾いていたことを知っても諦めきれなかったのは、昔から王妃になるってそう希望していて、簡単にその夢を無くすことなんて出来なかった。
その頃の私しかオタリー様は知らずに、私があの時のままだと思い込んでいる。
それならばこういった考え方をしてしまうのも当たり前といえば当たり前なのかも。
「王宮魔法師の座についたのは、教え子自身の努力の賜物ですわ。それ以外の何でもありません。私の事情で教え子の未来を狭めることなどできませんから。王宮に来たのは陛下から呼ばれたからで、私はすぐに帰るつもりで王宮に留まる気はないですよ」
私がそう言っても、やっぱり信じてもらえてはなさそうだ。私が王妃の座を狙ってここにいるって思っているのだろうな。
恋人も紹介したのに。
リグシャンが居るのにどうして他の人を望むとそう思われたんだろうか。本当にそのあたりは甚だ謎だ。
私が王妃になるためなら、偽りの恋人でも作る人間だってそう思われているのかな。
「オタリー様、陛下が私を呼ばれたのは謝罪のためですわ。王妃であるオタリー様が私を命を狙ったこと。それは陛下にとっても望ましくないことだったのです。ただあなたが思っているように私を王宮に召し上げようとかそういうことではございません。あくまで私と話をしたくて陛下はお呼びになっただけです。王妃の座はオタリー様のものですわ。だから、何も心配なさらなくていいんです」
私の言葉がどれだけオタリー様に伝わるかは分からない。私のことを思い込んで、決めつけているのならば、私の言葉も王妃の座を奪うためのものだとそう思っているのかもしれない。
……オタリー様自身が私が表舞台に立たないように様々な試行錯誤をしてしまったからこそ、そのことが負い目になっているのだと思う。
基本的にオタリー様は、そういったことをするタイプの人間ではなかったから。
周りからそそのかされたのか、影響を受けたのか分からないけれど私の行動の邪魔をした。そして私のことを陥れた。
そのことが少なからず、オタリー様にとっては心の傷にはなっているのだろう。だから、私が表に出れば仕返しをされると思っている。
「オタリー様はもっと自信を持ってください。周りは勝手に私のことを持ち出して、オタリー様に何かを言うことはあるかもしれません。ただそれでも……王妃なのはオタリー様なのですわ。私は明確に貴族社会から弾かれて過ごしている存在です。だからオタリー様はとても立派です。私は今の暮らしをとても大切に思っているので、王都で暮らす気もありませんし、オタリー様にやり返すつもりも全くございません」
私はオタリー様の目をまっすぐに見つめてそう言った。
だってそれが事実なのだもの。私は何もやましいことはしていないし、オタリー様だって昔のことを気にする必要はない。
だって私は、オタリー様にやられたことも仕方がないことではあると思っている。
王族や貴族の世界だとそういうことってよくあることだし、私は明確に負けて、此処に居る。
それはもう終わった話で、いつまでもオタリー様が気にすることじゃない。
それよりも今の自身を誇りに思ってほしい。
もしかしたらオタリー様の娘である王女様が問題行動を起こしているのも、オタリー様が過去を気にしてばかりいるせいもあるのだろうか。
今を見て、それでいて周りの人たちのことをちゃんと見て欲しい。
陛下だってオタリー様のことで心を痛めているのだから。
「……口では何とも言えますわ」
だけどオタリー様はやっぱり信じてくれなかった。
「そう思い込むのはご自由ですけれども、本当に私はそういうつもりはございません。療養している間に良く考えてください。そして今の私を知ってください。周りに私がどうやって生きているか、本当に王妃の座を望んでいるか考えてください。周りの声を聞いて、判断をしてほしいのです。――それでも、私のことを脅威だと思うのならばその手にある幸せを取りこぼしてしまうことになってしまいますよ」
私がそう告げても、やっぱりオタリー様は黙ったままで信じてはいなさそうだった。
――これ以上言っても仕方がないだろうと、その後、私はオタリー様の元を後にした。
どうか、オタリー様が私への思い込みを無くしてくれたらいいなとただそう思った。




