53.久しぶりの王都 ⑦
それは学生時代のことを言っているのだろうか。魔法を上手く使えなかった時のこと。やっぱりそれはオタリー様が何かしていたらしい。グベルド様もそういうことを言っていたっけ。
「陥れた?」
「はっ、しらばっくれないで!!」
私が聞き返したら鋭い口調でそう言われてしまった。オタリー様は私が思っているよりもずっと思い込みの激しい人間なのかもしれない。
私が全てを知った上でこうしてオタリー様にかまをかけているのだとそう思われていそう。
そんなことはないのに。
「私があなたが上手く魔法を使えないようにしたことを分かっているでしょう?」
「そうなのですね」
正直そうだろうなとは薄々想像はついていたので、特に驚きはしない。
あの頃の私は魔法を使うことがとても好きで、自分が失敗することなんて考えてもいなかった。
大舞台で成功すると思い込んでいた。
だけれどもあの時、私は大失態を犯した。それがオタリー様の手によるものだと知ったとしても、そうなんだとしか思えない。だってそれは私にとってもう過ぎ去った過去のことだから。
「魔力が乱れるような薬をあなたに飲ませたの。だからあなたは失敗した」
「それで?」
「あなたがそのまま学園に来なくなったことには驚いてしまったけれど、私はほっとしたの。あなたが一番……あの方の妻の座に近い存在だったから」
オタリー様も必死だったんだろうなとは思う。だって下位貴族の身で、当時王太子であった国王陛下と近しい存在になった。そしてきっと恋をしていたのだと思う。
オタリー様はただ王妃になりたいという気持ちだけでそんなことを起こす人じゃない。そのことは私だって分かっている。ただ純粋に、陛下の奥さんになりたかったんだろうな。
……私は陛下に恋をしていたのは確かだった。だけれども、恋心だけで王妃になろうと思っていたわけではないと思う。
公爵令嬢として産まれた私は、王妃になることを周りからも望まれていた。そういう教育を受けてきた。
公爵令嬢という王妃になれる立場だった。そして自分で言うのもなんだけれども、私は優秀だった。
前世の記憶を思い出した今は、王妃の立場に固執はしていない。でも引きこもる前の私には王妃という立場も重要だった。陛下に恋をしていたのは確かだったけれども、例えば王妃になれないと分かれば私は躊躇したかもしれない。
当たり前の貴族令嬢だったから、そう言う風に考えていた。
でもオタリー様は純粋に陛下のことが好きだったんだと思う。高位貴族の産まれじゃないからこそそう言う考え方だったのだと思う。
うん、だからこそ陛下も今まで周りに居なかったオタリー様に惹かれた部分はあったのだろう。
「……あなたが表に立つことが怖かった。だから監視をさせていたの。外に出ようとするたびになにか起きていたでしょう? それも私がお願いしてやってもらったことだったわ」
「そうなのですね」
私はただそれだけ答えておく。確かに引きこもった後も周りに背中を押されて外に出ようとしたことはあった。
その時はトラウマを刺激するようなことがおこったり、怖い目にあったりした。
目の前で魔法による事故が起きたりとか、魔法使い同士の争いに巻き込まれそうになったりとか……なんというかあの頃の私は凄くネガティブになっていた。悪いことばかりを考えていた。
気分が沈んで、なんでもかんでも悪いように考え続けていた。
――そう、だからこそ些細なことで外に出るのが怖いと思ってしまっていた。
オタリー様が私を外に出したくなかったのは、私に陛下を取られると思ていたからだろう。
私はもし外に出れたのならば、頑張ろうとしただろうな。汚名を返上しようときっと必死になったはずだ。
王妃の座も、狙えたら狙ったとは思う。
それが分かっているからこそ、オタリー様にとっては私の存在は脅威だったのかもしれない。
正直考えてみれば、オタリー様のそう言う行動って仕方がないことだ。
私だってオタリー様と同じ立場だったら、同じような行動はしたかもしれない。自分の立場を守るためにそのようなことを行うのって貴族としてはよくあることではある。
ただなんというか、オタリー様にとって私自身が思っているよりも私は警戒する対象だったのだろうなと驚いた。
だって私が脅威でなければここまで警戒して、徹底する必要はないのだ。
「当時のことは分かりましたが、どうして今もそのようなことを?」
正直当時のことは分かるけれども、どうして今も? とその点だけは不思議だった。
「……いまだにあなたは貴族社会で騒がれているの。私が王妃として至らないとそう言う人も多いわ。あなたの弟子が王宮魔法師になったりして、また噂になっているの。だから、出てきて欲しくなかった」
オタリー様はただそう答えた。




