52.久しぶりの王都 ⑥
「ごきげんよう、オタリー様。お久しぶりですわね」
オタリー様は、王宮の奥まった部屋の一室に居た。厳重に警備をされている。というよりオタリー様が王家にとって望ましくない行動をしないように監視しているというのが正しいかもしれない。
そのような状況に追いやられて、オタリー様はとても不服だろうなとは想像がついた。
私が声をかけると、オタリー様は強張った表情でこちらを見た。……どうやら私のことを警戒しているようだった。
私のことなんてオタリー様は警戒する必要なんてないのにな。
なんというか私とオタリー様では、今は活躍の場が全く違う。
学生時代は、同じだった。私とオタリー様は陛下の寵愛を競っていた立場ではあるから。
「マルグレッタ・ミレハーユ……」
私の名を呼んだかと思えばオタリー様は、笑みを張り付けて「ごきげんよう」と言った。
私への警戒心がとても強いらしかった。ただ長年王妃として生きてきた覚悟が見られる。
昔のオタリー様なら、もっと感情が外にわかりやすく出ていた。
でも今のオタリー様は、王妃として生きてきた時間がある。だから、王妃として感情を外に出し過ぎないようになったんだろうなとは思う。
さて、どうしようか。
私の命をどうして狙うのか。そのあたりを聞くべき? でもいきなり問いかけるのは駄目かしら。貴族としてなら遠回しに問いかける方がいいのだろうけれども、真正面から聞きたくなるわね。
私が平民としての生活に慣れているからこそなのかもしれないけれど。
でも危険なのだろうか。
真正面からそれを問いかけたら、オタリー様は答えてくださる? 私は分からないなとそう思いながらもじっとオタリー様を見る。
年を重ねているけれども相変わらず可愛らしい見た目をしている。
私もオタリー様もお互いに、年を取ったんだなと実感した。学生時代は、オタリー様をこんなに穏やかな気持ちで見つめることなんて出来なかった。
自分の居場所を、未来を脅かす存在だとそう思って不安を感じていたことを覚えている。
「オタリー様、私は今、平民達に混ざって暮らしておりますわ。魔法を教えたり、困っている人を手伝ったり、飲食店で接客をしたり……以前と比べてそれはもう様々な人達と関わることが出来て充実した暮らしを送っておりますの。それに……隣にいる彼のような素敵な恋人も出来ましたわ。学生時代の頃を考えるとお互い、遠いところにまで来てしまったものですわね」
そのまま「私のことをどうして狙ったか?」というのを問いかけるか悩んだ。だけれども一旦やめておいた。
今の私のことを知ってもらえたら……私を排除しようとする理由も無くなるのではないかとそう思えた。
引きこもり期間が長く、遠回りをし続けた。だけど今の私はとても充実した暮らしをしている。
リグシャンという恋人も出来て、こうして過ごす日々は幸せだ。
だけどオタリー様は、そうは思ってくれないらしい。
「そのようなことを言っていても此処にまでやってきたのですから、何か思惑はあるのでしょう?」
そんなことを問いかけられて、困ってしまった。
ああ、オタリー様は私が以前と同じだと思い込んでしまっているのだろう。私がこうして王宮にやってきたのは、貴族として返り咲くことを望んでいるのだとそう思われてしまっている。
正直言ってこうして思い込んでいる相手には、幾ら真意を告げても分かってくれない可能性は十分にある。そう言う人ってなかなか信じてくれないものだもの。
でもオタリー様は王妃なのだから、冷静になれば周りの言葉をきちんと聞いてくれるとそうは思っている。
だから私は伝えていくしかない。
「いえ。今回は陛下から呼び出しがありましたので、こちらに赴いたまでですわ。そうでなければ王宮へ足を踏み入れることなどなかったでしょう」
あくまで自らの意思で此処に来たわけではないことを告げておく。
実際に私は陛下からのお手紙が来なかったらこの場に立つこともなかった。オタリー様と対面することも二度となかったかもしれない。
私とオタリー様の立場は違うから。
私はオタリー様と対面出来るような立場でもないから。
でもオタリー様は私の言葉をやっぱり別の意味でとってしまったらしい。
「……やはりあなたは私を恨んでいるのでしょう」
そう告げられて驚いた。恨みなんて一欠けらも持っていなかった。複雑な感情はあるかもしれないけれど、そのくらい。
前世の記憶を思い出したからこそ、長い年月が経過したからこそ、私はそんな感情を持っていない。
「どうしてそう思うのですか?」
「だって私は……あなたを陥れたのだもの」
オタリー様はそう言った。




