エピローグ
7/29 四話目
「マルちゃん、そんなに動き回って大丈夫なのかい?」
「マルちゃん、おめでとう」
王宮へ赴いてから数か月後、私は普段通り過ごしている。あれ以来、私の命が狙われることなどはない。
……オタリー様は相変わらず療養中だ。もしかしたらこのまま表に出ることがないかもしれないというのはお兄様から聞いている。
――王太子殿下が王位を継がれるのはまだ先だけど、それまでの間にオタリー様の療養が終わらなかったらそのまま静かなところで過ごすって話だった。
オタリー様がきちんと理解をしてくれるようになるかどうかは定かじゃない。……過去にとらわれて、私を脅威と感じているオタリー様はいつまでもこのままな可能性はある。
これは私にはどうしようもない問題ではあるので、これ以上は対話をしにいくつもりはない。まぁ、オタリー様が過去にとらわれなくなったら「あんなこともありましたね」って笑いあえるかもしれないけれど。
「ええ。大丈夫よ。妊娠は病気ではないもの」
私は街の人々の言葉にそう答えた。
……そう、私は妊娠していた。街に戻ってから早急に結婚式を挙げた。私は元々有言実行なタイプというか、引きこもる前から行動力のある方だった。自分でもびっくりするぐらいすぐに婚姻の準備をした。
うん、私は思いっきりが良いなと自分で実感したぐらいだ。
結婚までしてしまえば余程のことがなければ別れたりもしないだろうし、まぁ、そうなったとしてもそれはそれなんだけれど。
結局未来はどうなるか分からないし、生きていれば引きこもっていた時と同じぐらい落ちこんでしまうことはあるかもしれない。
それでも私は今、幸せで、こうして頑張ってきたからこそ掴んだ人生なのだから、この先何があったとしても私はきっと笑っていると思う。
前世の私ってここまで前向きじゃなかった気がするから、なんというか、ここまで楽観的で居られているのは完全に今世の私の影響よね。
「大丈夫ならいいけれど、あまり無茶をするとリグシャンも心配するから適度に休むようにね」
「ふふっ、そうね。リグシャンってば凄く心配性なんだもの」
王宮でオタリー様と話して、私の心はすっきりした。それもあってか魔法を使う際のトラウマもほとんどなくなっていて、大分魔法を好きなように使えるようになりつつある。
人の心って不思議だ。
引きこもっていた頃の私はずっと絶望していたし、未来に対して希望なんて全く抱いていなかった。もう二度と思うように魔法を使えるようになれるなんて思ってもいなかった。
でも今は、そんなときが嘘のように晴れやかだ。
ちょっとしたことで人の考え方なんて、変わっていく。
割り切れないことも人によってはあるだろうけれど、それでもそうやって変わっていくものではある。
そう、ラーリーナとひと悶着あった王女殿下に関しても、陛下の方できちんと話し合いとかをしているらしい。……時間はかかるかもしれないけれど、王女殿下のこともこの後良い方向に行けばいいなとは私も願っている。
「マルちゃん!!」
「あら、リグシャン」
私がのんびりと思考をしながら歩いていたらリグシャンが目の前から歩いてきた。どこか慌てた様子がおかしくて笑ってしまう。
「そんなに重いもの、俺が持つ!」
「あらあら、ちょっと買い物してきただけだわ。それに動かなさ過ぎも問題でしょ?」
「それはそうだが……せめて俺に声をかけてくれ」
リグシャンはそう言って心配そうに私を見た。
なんというか本当に過保護だ。大切にされていることがよく分かる。うん、私はこうやってリグシャンが私を大事にしてくれているのが分かると嬉しい。それを実感する度に幸せだなって思う。
「ふふっ、ごめんね? 気持ち良さそうに寝ていたから、起こすのも悪いなと思っちゃって」
そう、リグシャンは気持ち良さそうに寝ていた。だからちょっと起こしたくなかった。
獣人である彼は警戒心の強い一面もあるから、心を許してくれた相手じゃなければ寝姿なんて見せてくれないらしい。そう、他の獣人が言っていた。だから、嬉しいなと思ってそのまま寝かせておいてしまった。
「そんなの起こしていい」
「今度からそうするわ」
寝かせたまま一人でお出かけしたらまた心配をかけそうだ。なら、今度は目が覚めるまで待っていようかしら。起こすのはやっぱりちょっともったいない気がするもの。だって気持ち良さそうに眠っているのだから、それを邪魔したくないもの。
リグシャンに手を引かれて、私はそのまま帰路につく。
とても幸せで、これから先に何が待っているのか考えるだけでも楽しみで仕方がない。
引きこもって居た頃では、想像が出来ない日々がこうして広がっている。そしてこの先も私には思ってもない日々が待っているかもしれない。
うん、とても楽しみ。
挫折して、引きこもって、そのまま終わるだろうと思われていた私の人生。私自身も、周りだってそう思っていた。
――前世の記憶というきっかけがあったからこそだけど、こうしてまた立ち上がれた私自身のこととても誇りに思っている。
私の人生はまだ、続いてく。
そしてそれはきっと、幸福なものになるだろうと私はそんな予感がしている。
というわけでこちらで完結になります。
女性向けも男性向けもなんでも読むのが好きで、女性主人公の第二の人生を歩むものも好きです。
ただ過去をなかったことにする作品ではなく、過去も踏まえて生きている子が書きたいなと思ったのもあり長年引きこもっていた女性の話を書くことにしました。
個人的な意見としては、人は何歳からでも何にでもなれるし、やろうと思えばなんだって出来るとは思っています。
そういうわけで引きこもっていたマルグレッタちゃん(三十歳)が前世の記憶を思い出してから、再起する物語を書きました。
あまり他にはない設定にはなっているのかなと思ったりはしてます。
此処まで読んでくださりありがとうございます。作品を読んで何か感じていただければそれだけで嬉しいです。
感想などいただけたらとても喜びますのでよろしくお願いします
2026年7月29日 池中織奈




