50.久しぶりの王都 ④
7/25 二話目
「よく来てくれたね、マルグレッタ、それにリグシャン」
陛下は優しい笑みを浮かべて笑ってくれた。相変わらず美しい方だ。学生時代に憧れた方で、もしかしたら昔の記憶だから私が勝手に理想を抱いているだけかもしれないとさえ思っていた。
だけどそうじゃなくて、記憶の中と陛下と同様に素敵な方だった。
綺麗だなと純粋に思って、過去のことを思い出してつい笑ってしまう。
「お久しぶりですわ、陛下。こうしてまたお目に掛かれて嬉しく思います。お呼びいただき、ありがとうございます」
カーテシーをしながら挨拶をする。気持ちはとても落ち着いている。全く緊張も、怖れもない。
臣下席のところにお兄様などの姿もあるから余計に心配がない。
私は注目を浴びている。それにリグシャンも。
リグシャンは緊張した面立ちで挨拶をしていた。その様子も可愛らしい。うん、陛下とのお話が終わったら沢山褒めてあげよう。
なんだかんだリグシャンは私を甘やかされることも、私に甘やかしてもらうことも好きなのだ。愛情表現が他の種族よりも重めなので、そういうのを喜んでくれる。
男性の中には恋人にかっこいい面だけ見せたいって人も当然いる。素直じゃない男の人もありよね。まぁ、私は素直に言ってもらった方が嬉しいけれど。
私が落ち着いた雰囲気で、堂々とこの場にいることを驚いている人は居る。――私の現在の様子って、彼らの想像通りじゃなかったからなんだろうな。
「マルグレッタが元気そうで良かったよ。あれ以来、一度も姿を見ることがなかったからどうしているか心配していたんだ」
陛下がこうして、私を心配してくれていることは嬉しい。ただ過去に陛下に抱いていた感情と、今抱いている感情は全く違うけれどね。昔は、恋焦がれていた。
王妃になりたいって、陛下の奥さんになりたいってそう思っていた。
――その頃の気持ちは、時間が経過したからこそもうない。
きっと前世の記憶を思い出したのがもっと早かったら――それこそ学生時代とか、引きこもり始めてすぐとかだったら、私はその夢を諦められなかったかもしれない。
そうなったらきっと大変だっただろうな。
得るものもあっただろうけれど、きっと失うものもあったはず。少なくとも今、大切に思っている人達と出会うことはなかった。
それに王妃を誰かと争うなんてことになったら、大変な事態にはなっていただろう。それこそ誰かを蹴落とさなければならなくなってしまったり……。
前世と今世は全く違う世界だから、その差異に苦しむことになったかもしれない。
だって前世の記憶があるというのは、ある意味異端なことだ。上手く取り繕えればいいけれどそうじゃなかったら、変わった人間だと判断される。
それこそ上手く立ち回れなければ……何か悪いものに憑りつかれたのはでないかとか、変わった人間には近づかないようにしようとか、そういうことになったかもしれない。
歴史上でその結果、排除された人っているもの。恐ろしい話だけれども、周りがそんな風に判断したらそれが正しくなってしまう。
……私、まだ冷静な考えが出来る年代で思い出せて本当によかったな。
「ご心配をおかけしてしまって心苦しいですわ。確かに私はお恥ずかしいことに長い間、何もせずに過ごしておりました。ただ最近はそれではいけないと思い、様々な活動を始めておりますの。だからご安心ください」
やっぱり陛下は優しい方だ。
幼い頃から私のことを知っているからこそ、余計に心配させてしまったのだろうな。
それにもしかしたら私が引きこもってしまったことに負い目を感じていた可能性も高い。
私が外に出れなくなったのは、直接的には陛下が要因ではないけれども……王妃の座を争う中でそういうことになったのは間違いない。
こんなに優しい方が国王として過ごすのって大変だろうな。それにオタリー様が少しだけ暴走気味なことも、きっと心労はあるだろう。
ただ私は恋人が居るし、陛下に寄り添う未来はこの先ないのでそのことを口にしたりはしないけれど。
お兄様達には陛下を支えていただくように伝えることぐらいは出来るが。
陛下は私の様子を見てほっとした様子だった。
「それならよかった。リグシャン、マルグレッタのことをよろしく頼むよ。私にとっては妹のような存在なんだ」
「もちろんです」
リグシャンは緊張していたけれども、堂々とそう言ってくれた。こうして陛下の前でも宣言してもらえると嬉しくなる。
つい、ニヤけそうになる口元を我慢する。
だって陛下の前でだらしない表情を浮かべるわけにもいかないもの。
それにしても陛下はやっぱり一介の冒険者でしかないリグシャンにも見下すような態度はしない。
そういうところも、嬉しくなった。
なんというか、私が過去に憧れていた陛下が差別的な人だったら私は勝手にがっかりしてしまったと思う。本当に勝手な感情だけれども、そう思ってしまった。
「それとマルグレッタ、王妃がすまなかった。まさか、此処までマルグレッタのことを気にしているとは私も思っていなかった。それに過去にマルグレッタの身に降りかかったことに関しても、オタリーの関与はあったとのことだ」
「そうなのですね。オタリー様は私のことを脅威と感じているのかもしれませんが、私は彼女の立場を脅かすつもりはございません。そのことを理解していただければ問題ないかと思うのですが……、オタリー様のご様子は?」
私は陛下へとそう問いかけた。




