48.久しぶりの王都 ②
7/24 三話目
陛下からの手紙には王宮に来てほしいということだった。王宮へ向かうのも随分久しぶりだけど、私は凄く落ち着いている。返答もすぐに送った。
私の返答を受け取って陛下の遣いはすぐに帰っていった。
「リグシャン、私は数日後には王宮に行くけれどあなたはどうする?」
「もちろん、俺も一緒に行く。作法などは分からないが……それでも一人で行かせたくない」
「そこまで心配は要らないわ。少しぐらい粗相をしても許していただけるわ」
あくまで私的な要因で王宮に赴くのだ。もしリグシャンが王宮に慣れていないからこそ何か失敗をしても、そのくらいで処罰をするほど器が狭い人ばかりじゃない。どうにでもなるから気負う必要は何もない。
「それなら安心だが……少し緊張するな」
「そうね。おそらく陛下とお会いすることにはなるけれど、問題ないはずよ」
私は陛下のことが好きだった。学生の頃は私が王妃になるって自信満々だったな。若い時のことを思い出すと少しだけ恥ずかしいわね。……王宮に行くことも、陛下にお会いすることも緊張はしていないけれども羞恥心はあるわ。まぁそんな過去の日々も私にとっては懐かしくて、大切な思い出ではあるけれど。
王宮にはきっと私の知り合いも多くいるわよね。過去の私を知っている人も――今やこの国の重臣として活躍して居たりするはずだもの。それに王宮魔法師として働いている教え子も。
昔、私の魔法のことを褒めてくれた年上の王宮魔法師の人も。
……本当に帰ってきたんだな。
改めて実感して、嬉しくなった。私の脱引きこもりでの目標は自立すること、やりたいことを出来るようにすることが最初だった。こうして王都にまた訪れることも陛下にお会いする機会をもらうことも……想像していなかった。
私の想像していた未来は、過去と切り離されているようなイメージだった。平民として、貴族との関わりを無くして生きていこうとそんな風に極端に考えていた。
でもこうして実際に家を飛び出て生活をしていると、そこまで極端にする必要はないなって分かった。
うん、前世の記憶を思い出した頃の私はどちらかに振り切らなければならないって勝手にそう思っていた。リグシャンに言われるまで一人でなんでもしようとしていたのもそう。
……思い込みで行動するのって本当に駄目ね。
「マルちゃんは陛下のことが好きだったんだよな?」
「ええ。そうね。学生の頃はそうだったの。それで必死だったから、オタリー様とは恋敵のようなものだったのよね。今、こうして互いに別の相手がいて、それぞれ違う道を歩んでいるのが面白いわよね」
少なくともあの頃は、逆の未来の方を皆想像していたんだろうな。
――私が王妃か、高位貴族の夫人になるだろう。そして下位貴族の令嬢であるオタリー様は下位貴族に嫁ぐか、平民になるだろう。
そう、想定通りに進むのならばそれが当然だった。
でも実際は逆なのだから、本当におかしい。
でもこうして想像とは違う人生を歩むからこそ、楽しいのだ。
「マルちゃんは、今は……貴族として暮らしたいとか思ってなさそうだな」
「ええ。そうよ」
「もしそういう機会が訪れたら、その時はどうするつもりだ?」
問いかけられて、驚く。例えば私が貴族夫人になる道とか、王族や貴族と関わりながら、貴族社会にどっぷりひたる道を提示されたら?
リグシャンはどちらを選んでも背中を押してくれる気はする。ただ私は、きっとそう言う道を選択出来たとしても今の生活の維持を選ぶだろうなとは思っている。というか、そうしたい。
「もしかしたら今の私を見て、同情する人もいるかもしれない。私の生活は貴族としての華やかなものとは違うから。それに昔の私を知っている人達からしてみると、私は挫折をしてしまった可哀想な人なのかも。だから私に対して良かれと思ってそういう提案をする人って多分いるわ」
うん、私も当たり前の貴族として生きていて、同じようにいつの間にか貴族社会から弾かれている人を見かけたら同じように手を差し伸べるべきって考えてしまうかもしれない。
だけど、公爵家を離れてからの暮らしを経験したからこそ……私は自分は可哀想なんて思われる立場ではないって分かっている。
「でも私は今の生活が好きだし、のんびりと過ごす日々を続けていきたいと思っているから王都での暮らしなどを提案された場合は断るわ。寧ろ私と何か共同で行いたいなんてことがあるなら、向こうからくればいいと思うの」
私がそう言って笑ったら、リグシャンも笑っている。
ちょっと傲慢かもしれないけれど、向こうからくればいいってそう思ってしまっているの。
だって私は今の暮らしを続けたいっていうそこは譲れない。
余程の理由がなければ違う場所で暮らそうとも思わないし、自分の手が届く範囲で出来ることをやる。
今回、王都に久しぶりにやってきて嬉しくはなったけれども……ずっとここにいようとは思っていない。
私の居場所は、王都でも、貴族社会でもない。
そう言えるから。
オタリー様にもそれを告げたら、私が脅威じゃないって思ってもらえるかしら?
リグシャンと話しながら私はそんなことを考えるのだった。




