43.結果の表れと、不穏な出来事 ⑤
ラーリーナはしばらく滞在した後、手続きを踏んで他国へと留学することになった。その間にラーリーナの実家には王女からの手紙は届いていたらしいが、それに関しては当たり障りのない返事を実家宛に送っておいたそうだ。
それにしてもこうして療養に出ている最中も接触があるなんて気が休まらないわよね。
流石に他国へ向ったら、そこまで頻繁に手紙が来ることもないだろうけれど。
「マルグレッタ様、今回はありがとうございます。こうして問題から離れて療養することで、私も前向きな気持ちになれました」
ラーリーナはこの街を去る前にそう言って笑顔を見せてくれた。
「あなたが笑顔になってくれて嬉しいわ。もし留学先で問題などが起こったらすぐに相談してね? すぐさま返事をすることは難しいかもしれないけれど、必ず力になるから」
私に出来ることは少ないかもしれないけれど、こうやって味方でいようとすることは出来る。
「ありがとうございます。何かあったらお手紙をしたためさせていただきますわ。それにこの国に帰ってくる時はマルグレッタ様のところへ必ず顔を出します」
そう言って笑ってくれて、私も嬉しくなった。
「……マルグレッタ様」
ラーリーナは、お礼を言った後に神妙な顔で私の名を呼んだ。
「どうしたの?」
もしかしたら留学のことで不安を感じてしまっているのだろうかと安心させようと笑いかける。
――そう思ったのだけど、予想外の言葉を口にされる。
「リグシャンさんとは、付き合わないの?」
「……え?」
「マルグレッタ様って、リグシャンさんと仲良しなのに付き合ってないって聞いたから」
私は驚愕して固まった。
そんな私を見てラーリーナはにこにこしていた。面白そうに笑っていて、少しだけ恥ずかしくなる。
この街にやってきた頃のラーリーナは、他人のことを気にする余裕も全くなさそうだったのに今はすっかりこうして周りのことを気にする余裕が出来ている。
「……えっと、それはその」
私は戸惑って、顔を赤くしたまま固まってしまった。
「リグシャンさんはマルグレッタ様のことが好きだって聞いたし、マルグレッタ様だってリグシャンさんのことをとても大切にしているように思えるんですもの。なのに付き合っていないなんてもったいないなって」
そう言われて、私はなんと答えたら良いか分からなかった。
私はずっとリグシャンのことを待たせている状況にある。好意を見せてくれているのに、私はそれに応えられていなかった。
「そう、ね……。私はリグシャンのことを大切には思っているわ」
だって私にそれはもうよくしてくれているから。私に何かあった時に助けたいって、そう言ってくれていて。
私がやりたいことを応援してくれている。
私はリグシャンと一緒にいることが楽しくて、穏やかな気持ちになっていた。それは確かなことだった。
「それなら、その気持ちを受け入れたらいいのに」
「……」
「マルグレッタ様はリグシャンさんが他の人の傍に行ってもいいんですか?」
そう問いかけられて考え込む。
すっかりリグシャンが私の傍に居ることが当たり前になってしまっている。彼は私の生活に溶け込んでいて、リグシャンが居ない生活なんて考えられなくて。
だけれども――なんというか、過去の恋……今の国王陛下へと恋をしていた頃のような熱があるわけじゃない。
ただリグシャンが、私の傍から離れるのは嫌だなとかいうそう言う感情はある。
私って我儘なのかもしれない。私はリグシャンとの関係を割り切れてはいない。はっきり出来ていない。
今の状況が穏やかで、楽だからこのままがいいなんて思ってしまっているけれど……、それって私が勝手に思っているだけのこと。
その方が楽だからって逃げそうにはなっているのかもということに気づいた。
――恋人という関係になって、その後別れが来たら苦しいなとか、そんな逃げの感情。
引きこもりを脱してから、私は強くなったつもりだったけれど……まだまだそういう心の弱さを私は持ち合わせている。
そのことに気づいて、私って駄目だなと少し落ち込んだ。
でもこうして気づいたのだから、このままでは駄目だ。だって私はリグシャンに甘えてしまっている状況だから。
「……そうね。私も、ちゃんとリグシャンに向き合わないと」
私がそう言ったらラーリーナは笑った。
「はい。そうしてください! 私も留学先で頑張るので、マルグレッタ様もリグシャンさんと仲良くしてくれていたら嬉しいです。私は二人のことが好きだから、二人が仲良くしていると嬉しいんです」
そう言って微笑まれて、私は大きく頷いた。
それから私はリグシャンを呼び出して、自分の気持ちを伝えた。リグシャンは嬉しそうに笑って、それから私達は恋人になった。




