42.結果の表れと、不穏な出来事 ④
ラーリーナは少しずつ元気を取り戻しているように見えた。ただし不安定な部分は当然あるみたい。
王女のことなど、色々と思う所があってどうしたらいいかわからないのだろう。
基本的に私の方針としては、王女のことを思い出させることなく過ごしてもらうことにしていた。だけれども、いずれこの場所から飛び立つことはほとんど決定事項だ。だからこそ、向き合わなければならないことはある。
「ラーリーナはこの先、どう生きていきたい? この国で過ごしたいのか、それとも他国に行くことを望むのか。それ次第で私からアドバイスできることって変わっていくのだけど」
少しずつ笑顔を見せるようになったラーリーナからしてみると、この話題を口にされることは望んでいないんだろう。
それでも――彼女がこのまま逃げずに向き合いたいのならば避けて通れない問題ではある。
「……私が、どう生きたいか?」
「ええ。それ次第で私からあなたに送るアドバイスは変わるの。だからあなたがどうしたいのか知りたいの。王女殿下に困らされていることは知っているけれど、彼女とどうやって接していきたい?」
「……出来れば、関わりたくはないというのが本音です。王族の相手は……私には荷が重いのです」
「そうね。王族と付き合っていくことは大変だもの。となると、他国へ向かうことを検討した方がいいとは思っているけれど、それはどう? 他国へ赴いた後ももしかしたら王女殿下と関わることもあるかもしれないけれど、それでも今よりも状況は変わっていくはずよ」
私はそう言ってラーリーナに笑いかける。
「そう、ですね……。でもなんというか他国に赴いたからといって私は……王女殿下から離れられるとはどうしても思えなくて……」
私と同じようにトラウマを感じてしまっているのだろうとすぐに想像がつく。
トラウマというのは、それぞれの個人のものである。周りが些細なことだと思っていたとしても、それは大きな傷になっていたりする。
私が思っているよりもずっと、ラーリーナは傷ついている。
「そうね。怖くはなるわよね。私は王女殿下にお会いしたことはないから、どういう方なのかは噂でしか知らないわ。王女殿下は、あなたが嫌だと言っても聞いてくれない方という認識であっている?」
私はまず、ラーリーナのことを否定しないようにそう声をかける。だっておそらく彼女は……散々王女の擁護する声を聞き続けたはずだ。
王女自身に悪気がなかったとしても――。
だからといって他人をこれだけ追い詰めておいてそれを良しとすることは良くない。
ラーリーナに、「そのくらい我慢しなさい」などという言葉を口にしたのではないかと想像がつく。
否定され続けたら、冷たい視線を向け続けたら――それはもう辛い。
前世の記憶を思い出して、三十歳を超えた今はその程度……と思える。でもそれは私が年を重ねたからなのだ。
ラーリーナぐらいの年頃では、絶望を感じてもおかしくない。
「そう、です。王女殿下に構われているから、周りの目も凄くて……。仲良くしていた子とも、仲がよく出来なくなって……」
「それは本当に大変だったわね。でも少なくとも物理的に距離を置いたら少しは気分が楽になると思うわ。基本的に上に立つ身分の方は、自分の影響力を知っている方ばかりよ。だから離れたら、そんな脅威はなくなるはず。それに他国にいっている間に王女殿下のような方と接することになった際の対応法を学ぶのもいいと思うの」
安心させるように私は笑いかける。
十代ぐらいだと、世界なんて限られている。前世でもそうだったけれど、一か所しか知らなくてその場所で挫折したら、絶望してしまったりする。そういうものなのだ。
私も今世で身をもって経験したから余計にそう思う。私の挫折と、ラーリーナの挫折は別物だし、同じ気持ちが分かるとは言えないけれど共感は出来る。
私はラーリーナの世界を、広げてあげたいなと思った。
「私に、出来ますか?」
「出来ると思うわ。少しずつでも学べばいいの。数年間留学に行くとかでもいいと思うの。その間にね、あなたが怖いと思うことを無くしていけるように出来たらとても素敵だわ」
「……怖いと思うことを無くす」
「ええ。そうよ。私も今、自分にとって恐怖していることを少しずつ無くしていこうとしているの。あなたは王女殿下と関わることで凄く傷ついたでしょう? その傷や恐怖心を克服してこの国に戻れたらとても良いことだと思わない?」
トラウマって難しい。私もいまだに昔のことで恐怖することはあるし、夢に見てしまうことだってある。魔法も全力なわけでもない。そんな私の言葉が何処まで響くかは分からないけれど、私は王女殿下の件でトラウマを抱えている状態のラーリーナじゃなくて、素の……トラウマを克服した彼女を見てみたいなとも思った。
だって今の彼女は、本来のラーリーナではないはずだから。
「……思います。もし、そうなれたら素敵だなって。私は王女殿下のことを上手く躱すことも出来なくて、されるがままだから……。このまま振り回されたら、私は私じゃいられなくなります。暗いことばかり考えて、どうしたらいいか分からなくなってしまうと思うから、他国に行ってみたい気も、します」
ラーリーナは不安もあるだろうけれど、そう言った。




