41.結果の表れと、不穏な出来事 ③
「は、はじめまして」
療養にやってきた少女――ラーリーナは緊張した面立ちだった。
自信がなさそうで、視線を彷徨わせている。それだけの出来事があったんだろう。
私が事前に伝え聞いている情報以上のことが。
結局のところ、周りから聞いた情報だと見えてこないものはある。だって本人がどう思っているかとかが一番大事なのだもの。
だからラーリーナ自身がどんなふうに生きていくつもりなのか、どういう風に解決していきたいのか。
それを確認しなければならない。
「初めまして。私はマルグレッタ。よろしくね?」
「は、はい」
緊張した面立ちの彼女を見ていると私が公爵家の出だとかそういうのを知っていそうだ。
私は公爵家ではあるけれど、貴族には関わっていないしそういうことを気にしなくていいのになってそう思ってしまった。
ラーリーナとはのんびり過ごしつつ、仲良くなるために話しかけることにした。ただラーリーナ自身はそこまでお喋りが得意な方でもなさそうなので、あまりしゃべりかけ過ぎないようには気を付けている。
ただし自死を選んだりしないようにきちんと見守ってはおく。精神状態が不安定な状態だと気づけばそういう危機に陥ったりはしてしまうだろう。
うん、前世でも不安定な状況になった人を見かけたことがあったけれど本当に危うかった。
ラーリーナは一見するとまともな状態に見える。
ただやっぱり悩みや不安は抱えている様子なので、大人として見守る必要はあるのだ。
ラーリーナが好きなことはなんだろうか?
そう思いながら話しかけた中で、彼女は刺繍が好きらしい。あとは音楽を奏でることも好きみたい。
どちらかと大人しい性格で、だからこそ王女殿下から接触をされて気に病んでしまったのだと思う。
王女はオタリー様に似て、明るい性格はしているらしい。オタリー様はその明るい性格で、皇帝陛下の心をつかんだ。
……私みたいな産まれながらの貴族令嬢として生きている人よりも、ああいう垢ぬけた子が好きだったんだなって思った。
「一緒に刺繍をしましょう。私は刺繍は得意ではないから少しだけ恥ずかしいけれど」
貴族令嬢として、刺繍は嗜みでもある。とはいえ、私はそこまで得意なわけではなかった。
あくまで最低限、刺繍が出来る程度だった。
でも貴族令嬢の中には、素晴らしい刺繍の腕を持ち合わせている方もいるのよね。私の昔の友人にもいたわ。
ラーリーナは刺繍を黙々とやっていた。美しく絵が描かれるものを見たら、とても素晴らしかった。
花だったり、剣だったり、魔物だったり――ラーリーナの紡ぐ糸は素敵なものだった。
私はこんな風に綺麗に刺繍することが出来ない。こういった才能があるだけでも凄いと思う。
「素晴らしい刺繍の腕だわ」
貴族としてじゃなくても、どこかに勤めることだって可能なんだろうなとすぐに思い至った。
まだ若いし、可能性が何処までも広がっているわよね。
私は三十を超えているから、それこそ年齢の制限があって出来ないこともあるかもしれないけれど、この子は無限の可能性があるのよね。
引きこもってしまっていたことに対して何をやっていたんだろうっていう呆れはあるけれど、そもそもその期間がなければ今の私は居ないから仕方がないなとは受け入れている。
「……でも刺繍が出来たって、役に立たないなって思います」
「誰かにそんなことを言われたの? 役には立つわよ。将来結婚相手に素敵な刺繍をするのもいいと思うわ。それに自分のドレスに刺繍をしたりしても評判になるかもしれないし、良いと思うの。それに何がきっかけで人生が変わるか分からないのだから、秀でたことがあることは素敵よ」
正直言って無駄なことって一つもないはずなのだ。誰かが無駄だと断言したことだったとしても、人によっては重要なことだったりもする。
そもそも人の価値観なんて、誰かが決めつけていいはずはない。
「……そう、だといいな」
ラーリーナは誰に刺繍のことを役に立たないと言われたかなんかは言わなかった。だけれども、おそらく王女殿下関連なんだろうなとは思う。
王女殿下はどうしてそんなことをラーリーナにいったんだろうか?
自信とか、未来への希望とか、様々なものが見えなくなっているんだろうな。
良い事ばかりが続いている時は、前向きなことしか考えられないだろう。でも逆に嫌なことが続いた時は、後ろ向きな感情ばかりに支配されてしまったりする。
きっとラーリーナはそう言う状況なのだ。
どうしたらラーリーナの心を前向きにさせることが出来るだろうか。
王女への対応を考えるか、それか他国へ行くことを検討してもらうか。
そのあたりをどうにかしないと結果として此処で楽しく過ごしても、逆戻りになるだけよね。




