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引きこもり令嬢(三十歳)の再起  作者: 池中織奈


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37.理想を形にしていく ⑦

7/5 二話目

 私はリグシャンにそんなことを言われるなんて全く思っていなかった。私の方がリグシャンよりもずっと年上で、そういう対象として見られているなんて考えてもいなかったから。



「えっと……それは本気?」


 失礼かもしれないけれど、私から洩れた一言はそんな言葉だった。



 リグシャンが冗談でそんなことは言わないだろうって分かっている。そう言う人じゃない。

 ただリグシャンは将来有望な冒険者で、見た目もかっこいい。そんな獣人である彼が私にこんなことを言ってくることが不思議だった。



「うん」

「今まで、そんな素振りなかったのに……」

「マルちゃんがそういうつもりないって言っていたから。恋人を作ったりする気もないマルちゃんに言っても迷惑かなって」

「そ、そうなのね。リグシャンは、私のことが好きなの?」




 立候補してくれるなんて言っているので、私に対して好意は抱いているのだろう。そして私はその気持ちを向けられることを嫌だと思っていなかった。

 ……なんだろう、この街に来て一番仲良くしている男の人だからかな。私は何だかんだそこまで人に踏み込みすぎないようにはしていた。



 ちょっとずつ仲良くなって告白されて断った後にきまずくなったりもした。そう言う関係になることを望まれて、結局そのまま縁が途切れたりそういうこともある。

 リグシャンと気まずくなるのはちょっと嫌だなと思ってしまった。

 お世話にもなっているし、一緒に過ごすのも落ち着く。



「そうだな。マルちゃんは可愛いし、良い匂いがするから。元から気になってはいた。だから気に掛けていたのもある」

「そ、そう」


 匂い。……うん、わからない。私は人間だから人の匂いとか、よく分からないけれど嫌な匂いじゃないならそれは普通に嬉しいことではある。




「マルちゃんは昔挫折して引きこもっていたって言っていたけれど、そこから立ち上がれることも凄いことだと思う。やりたいことのために一生懸命なマルちゃんを見ていたら、傍に居たいなって思ったんだよ。中々出来ることじゃないと思う。特に貴族だと、一度何か経歴に傷がついたら大変なことになるだろう?」


 そう言ってリグシャンは穏やかな表情で笑っている。


「まぁ、そうね……」



 実際に一度挫折をしたら自ら命を絶つ人だって多くいる。そういう社会だ。

 社交界の場だと特に何かがきっかけで、表に出れなくなることもある。



 私が引き籠ったままで、命を絶ったりしなかったのは家族が居たから。それにそんな覚悟もなく、だらだら過ごしてしまった。

 ただ前世の記憶を思い出したからこそ、今、こうして前に進めているのであってそうじゃなければ私はまだ引きこもっていただろう。




「でも私はきっかけがあったから今ここにいるのであって、それがなけれきっと……この街に来ることもなかったと思うの。そのころの私を見たらあなたもがっかりすると思うわ。この街に来た頃よりもずっと太っていたし。それに引きこもる前の私も凄く傲慢でリグシャンからしてみたら近づきたくない存在だったと思う」



 何だか私、自分の悪いところを口にしてしまっている。……そんなことを言う必要ってないのになと自分で何とも言えない気持ちになった。

 だけどなんというか、私って自信がないのかもしれない。挫折した時にぽっきりと心が折れてしまっていて、リグシャンがそんな気持ちを向けていることが信じられていないのかも。そんなの、向こうに失礼なのにな。



「マルちゃんって、自信ないよな。別に俺は今のマルちゃんを見て好きだなと思っただけで、過去のマルちゃんがどうであれ気にならないけど。それに太っていようがマルちゃんはマルちゃんだし。健康のために今ぐらい痩せていた方がいいとは思うけれど、別に太ってようが気にならない。マルちゃんはもっと自信を持っていいと思うんだ」



 リグシャンはそう言いながら笑っている。自信か。国王陛下に懸想して、王妃になりたくて、でもオタリー様に負けて……そのまま外に出ることなど出来ない状態になっていた。

 過去の私は、凄く自信満々だった。

 けれども今の私はあの頃のように自信を持つことが出来ないでいる。




「自信ね……。ただなんというか、過去に大きな失敗をしたから、色々と心配にはなっているのかも。今は上手くいっているけれど、何か掛け違えたらまた以前のようになるのかなって思ってしまっているのはあると思う」


 リグシャンは優しいから、私も素直に気持ちを口に出来るのかもしれない。



「そう言う心配を持つのは当然のことだと思う。ただ、別にさ、失敗してもいいと思う。マルちゃんには俺も含めて、周りに人が沢山いるんだ。マルちゃんが今まで通り過ごしていたら、何かあった時に助けてくれる人はいくらでもいるんだから、好きなように動けばいいんだよ」


 そう言われて、私はこくりっと頷いた。うん、確かにそうかも。なんだかんだ私は周りに恵まれているからどうにかなるはず。


「ありがとう、リグシャン。えっと、それで先ほどの告白だけど、今は受けられないわ。ただ私はリグシャンのことは嫌いじゃない。寧ろ一緒にいて楽しいと思っているけれど、まだ分からないから」


 私は一先ずリグシャンにそう返答した。


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