36.理想を形にしていく ⑥
「マルちゃん、俺と付き合わない?」
私はそんな風に告白されることも増えてきた。……本気でそう言う感情を抱いている人もきっといるだろう。ただ私はその気持ちを向けられても応えようと思っていない。自分のことで精一杯だから。
それに私の至らない部分を、過去を全て知った上でこういった告白をしてきたわけじゃない。私はもう三十歳を超えているし、そういうことは考えていないのだ。
ああ、でも言ってしまえば何歳からでも恋はきっと出来る。前世も年をおいてから恋に生きている人達も当然居た。この世界でもそう。
――だから別に、私がどれだけ引きこもっていたとしてもそういう資格はきっとあるんだろう。
一人で生きていこうとすることはやっぱり周りから見ると、可哀想に見えるらしい。全然そういうことはないのに。
告白をしてくる人たちだって、私のことを思って言ってくる人も多いことは分かる。
ただ同情心などの比率の方が多い気もする。貴族出身なのに結婚もせずにこんなところで過ごしている――その事実はやっぱりなんというか……、要らぬおせっかいを沢山呼んでしまうらしい。
良かれと思って男性を紹介されることもある。
ただなんというか、そういう告白を受けても私は他人事に考えてしまっていた。結婚なんてやっぱり考えられてもいない。それに、告白をされても心が動かされない。
貴族令嬢として生きていた時ならば、政略的な意味があっただろう。でも私はそういうものに今は縛られていない。
だから、正直私が心から結婚したいと思える相手に出会えない限りは、そういうことは多分ない。
……なんというか、私って学生時代に恋に恋して一生懸命だったからそこで燃え尽きた感があるというか。
挫折して、王妃になる道も魔法使いとして働く道も全てなくなって……嫌なことから目を背けて、そうして引きこもりを脱した私は一度生まれ変わったような感覚。
告白を断ると、素直になるといいって言われたりもする。一人で生きていくのは大変だと。まぁ、それはそうなんだろうけれども。
ただ私はそういう打算的な理由で結婚するつもりはないしなぁ。私が切羽詰まった状況ではないからこそこれだけ余裕なのかもしれないけれど。
結婚はそれぞれ事情のあるものだというのは分かっている。この街でも意にそぐわない形での結婚もそれなりにあるし。
そんな人たちからすると私は贅沢な悩みを抱えているようにも見えるらしい。一部の人達には嫌われてしまった。
……私、恵まれているからなぁ。そういう姿を見て色々思う所がある人も多いんだろうな。
私はそういう人たちと全て和解することはまず無理だ。私の出来ることって限られている。
そもそも全員に好かれるなんてまず無理な話だもの。そもそも話し合ってもどうしようもない人相手にそこまで労力を使えるほど私も暇じゃない。
私は少しずつ自分のやりたいことを叶えてはいるつもり。
でもまだまだ周りから見ると私って頼りないのかもしれない。もっと結果を出さないと、どうしようもないんだろうな。
私の価値とか、私の見方とかそういうものって結局これからの行動で示していくことしか出来ないのだもの。
ただもっと時間がたたないと、善意からの縁談とかがなくならない気がする。……いっそのこと誰かに仮初の結婚でも持ちかける? なんてそんなことも思い浮かばなくはなかった。
それはそれで周りに迷惑をかけてしまうから、出来ればそんなことはしたくないのよ。
私は夢見がちな部分がまだあるのかも。結婚って素敵なものなんだろうなってそう言う風に思ってはいる。
元々公爵令嬢として生まれ育った私は、政略結婚の意味も理解していたけれど、好きな人と結婚出来たら……なんて考えているような少女だったから。
三十歳になった今もこうして誰かと結婚するなら、ちゃんと心を通わせている方がいいなんて思っているのも……周りからは呆れられるかもしれない。
私はそんなことを考えながら、いつも通りの日常を贈る。幾ら周りから何かを言われたとしても私の行動が変わるわけじゃない。
……結婚だけが、幸せってわけではないのだけどな。
ただそれでもそういう幸せを押し付ける人たちってやっぱりいるんだなって実感した。というか、前世でもそうだったもの。
そういう人たちって少なからずいた。それで良い結果につながることもあれば、悪い結果に繋がることも当然ある。それを受ける人次第なんだろう。
「……どうしたものかしら」
一人で、そう呟く。魔法教室を行っている場所だ。誰からの返答も来ないだろうと思っていたのに、予想外に声が返ってきた。
「なにがだ?」
それはリグシャンだった。
「あら、リグシャン。ちょっと考え事をしていたの。ほら、最近……私に縁談を持ってくる人が多いでしょう」
リグシャンは私のお手伝いをしているので、そういったことも知っている。
「そういえばそうだったな。でも結婚する気はないんだろう?」
「んー、私も年だしね。そういうのは考えられないかなって。ただこの先の未来は分からないけれど」
「それってそういうつもりもあるってことか?」
リグシャンが驚いた顔をした。私がそんなことを言うとは思わなかったらしい。
「まぁ、そうね。いつか寂しくなったら……。それでいて好きな人が出来たら考えなくもないかも」
今は結婚なんて考えられないし、私は自分のやりたいことを進めようってそればかり。だけど私は何だかんだ寂しがりやである自覚はあるから、もしかしたら誰かと寄り添う道もあるかもしれない。
「それ、俺も立候補していいか?」
「え?」
リグシャンから言われた言葉に私は驚いた。




