35.理想を形にしていく ⑤
7/2 二話目
「うん……分かった。私も自分なら何でも出来るって思い込まないようにする」
「そうね。自分の実力を過信しすぎるといざ何かあった際に耐えられない場合があるから、そのくらいの心構えがいいわ。それと失敗を恐れてはいけないわ。挑戦するということはそれだけ失敗する可能性もあることなのよ。だから、そう言うものだと思ってなんでも挑戦したらいいの。もちろん……取り返しのつかない失敗もあるかもしれないけれど……その時はその時で相談してね。そしたら私はあなたが前に進めるようにどうしたらいいか考えるから」
取り返しのつかない失敗というのは少なからずある。そもそも私の挫折も、人によってはそういうものだ。
でもだからといってそこで人生が終わるわけじゃない。失敗したら、それを挽回するために頑張ればいい。
言ってしまえばそういう話でしかない。
まだ未来が確定していない教え子たちが、そういった挫折をしないように私はそんな助言をした。
ただそうはいっても彼らは私と同じように挫折なんてすることなく、輝かしい人生を歩み続けるかもしれないけれど――結局未来なんて誰にも分らないもの。
「うん。ありがとう、マルちゃん!! 私、色々挑戦してみる。魔法使いとして働けるように一生懸命頑張るね」
「ええ。そうしてね。どこで働きたいとかあったら相談してほしいわ。私、これでも魔法使いとして働いている知り合いもいるの」
私が引きこもってから途切れてしまった縁もそれなりに多い。
――それでも彼等全てが、私に背を向けたわけではない。私の方から連絡をしたらグリターラと同じように以前と変わらない態度で話しかけてくれる人がきっといるはずだから。
過去の私を知っている人達と、マルグレッタ・ミレハーユとして接触することは恐ろしい気持ちも当然ある。
私はやっぱり怖がっていて、未だにトラウマが心を支配しているから。
それでも……私は前に進むと決めた。
私が魔法使いとして活躍することを期待していた魔法使いたちは、私の失敗にきっと失望しただろう。中には長年引きこもったような私と関わりたくないと思うような人もいるかもしれない。
――それでも私は自分の教え子たちのためにも、過去の知り合いに改めて連絡を取ろうと思った。
私は国に仕える偉大な魔法使いにはならない。誘われたとしても、今のままの暮らしを続けて行こうとは思っている。
ただそうはいっても私が公爵令嬢として生きていかないと決めたことは、教え子たちにとっては関係ない話。
それにこういう暮らしをしていたとしても、私がマルグレッタ・ミレハーユである事実は変わらない。
だから使えるものは使う。そういうしたたかさもきっと必要だ。私がミレハーユ公爵家の令嬢だと知ったら、色んな人が近づいてはくるだろうし、面倒な接触もこれから起こりうるかもしれない。
それに私が魔法を教えている子達だってその影響で嫌な思いをしてほしくはない。
ただ教え子がもし王宮や貴族社会に関わるようになるのならば、私自身のこともきちんと語らないといけないかもしれない。
知らないままで、私のことをどうのこうの言われたら大変だ。
私のことは過去の人として、そこまで話題には上がっていないとは思うけれど……。それでも私のことをオタリー様と比べる人だっているけれど社交界の一番の話題ってわけでもないだろうし。
ただあれね、私が魔法を教えた子が活躍したら私のことでちょっとした面倒事は起こる可能性はある。
それを穏便に解決できるように準備はしておくべき。私のことを過去に勧誘してくれた魔法使いの人達に話を通しておくことも重要ね。
「マルちゃんは魔法使いの知り合い多いの?」
「昔の知り合いだけどね。随分連絡を取っていない方も多いけれど、連絡をしたら良い返事をいただけるのでは……とは思っているの。もちろん、全員ではないだろうけれど」
「ずっと連絡を取っていなかったの?」
「ええ。そうよ。さっきも言ったように私は色んなことを引きずってしまったから。その失敗を起こす前の知り合いなの。向こうからしたら今頃連絡を取るなんてと思われるかもしれないわ。本音を言うとね、少しだけ反応が怖かったりするの。だけど怖がっていても仕方がないなとも思って……だから、連絡をしてみようと思うの」
きっと両親やお兄様経由ならばきっと彼等にも連絡が取れるはず。
随分久しぶりの連絡だから怖さもあるけれど、それよりも今頃どんな暮らしをしているんだろうとか、私とまた仲良くしてくれたら嬉しいなとかそういうドキドキの方が大きかったりもする。
「そっかぁ。マルちゃんの昔のこと、その人たちにいつか聞きたいなぁ」
「あら、私本人には聞いてくれないの?」
「だってマルちゃん本人に聞いたら私の知りたいこと言ってくれない気がするもん。そういう目標作ろうかな。いつかマルちゃんの知り合いに色んなことを聞きたいって。あとはマルちゃんのことを自慢したいかも」
そう言ってにっこりと笑ってくれて、私も嬉しくなった。




